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となり

リチェールside 「あ、見て。おサルさんだ」 檻の中で小さなおサルさんを大きなおサルさんが抱っこしてる姿が微笑ましく千に指を指して教える。 「親子かなぁ。ちっちゃくて可愛いねぇ」 目の前のおサルさんの親子を見て可愛いと思ったのは本心だけど、頭の中は純ちゃんのことばかり考えてた。 スムーズに仲直り出来たらいいけど。 雅人さんもちょっと短気なところあるからなぁ。 したことが嫌だったと言うよりは心の準備ができてなくてびっくりして泣いちゃったのだと純ちゃんの話を聞いて思った。 いじらしくて可愛い。 残念ながらオレにその繊細さはなかった。 そりゃ当時は嫌だったけど、親がああじゃなかったら、ゆーいち家族を追いかけて日本に来ることもなかっただろうし、千に出会うこともなかっただろう。 そして千が気にかけてくれることも、オレを引き取ってくれることもなかったんだから。 オレの過去が不幸なものだったとしたら、千が幸福なものに変えてくれた。 だから、今さらなにも後悔なんてしてない。 「俺動物園とか初めて来たわ」 となりで千が、ふっと穏やかに笑う。 それだけで胸がぎゅっとするって、なんだかなぁ。 「あはは。たしかに動物園とか遊園地ではしゃいでる若い千が全然想像つかないや」 クスクス笑ってると千がぽんぽんと頭を撫でてくれる。 最近はこういう、ふとしたスキンシップも増えた。 そういえば千と初めてしたときも、千はこうやって宥めるように優しく何度も撫でてくれた。 オレなんて慣れてるから多少乱暴にしていいのに。 大切にされてどんどん自分が変わっていく。 初めてがこの人がよかった。 この人以外に抱かれたくなかった、なんて言ってたらきりがない。 気にも留めなかったことが、大切にされて切なさも覚えたりするけど。 そのことを温かく思う。 「リチェール」 ちゃんと前を見て歩いてないカップルにぶつかりそうになって、千がオレを引き寄せた。 ____それに、こんな切なさを知らなかったら。 名前を呼ばれただけで幸せになる気持ちも知らないままだっただろう。 この人のとなりでこれからもずっと、色んな感情に向き合っていきたい。 そう願って千のお留守の腕に手を絡めた。

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