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訪問者
純也side
もう少しでバレンタイン。
俺は全く何も用意する気がなかったけれど、ルリが一緒に作ろうって張り切ってるから仕方なく便乗してやる。
「僕は月城先生に手作りの生チョコあげるんだ。邪魔しないでねルリくん」
目の前でポッキーを食べながら堂々と宣戦布告してくるチビブタはルリが困ったように笑うのを見て満足そうにほくそ笑む。
月城への思いはふっ切れてるのに、こうやってルリを困らせたいが為だけに言ってることはもう周りもわかりきっていた。
「累、俺の分のチョコもつくってよ」
「えー、何で僕が」
「いーじゃん。月城先生に作るんだろ。ついでついで」
チビブタの後ろからひょこっと顔を出した雄一が食べかけのポッキーを持ってる手ごと引き寄せて横取りする。
なんかこの二人は最近妙に距離が近い気がする。
「てかチビブタそろそろ昼休み終わるんだから戻れよ」
「うるさいバカ。お前に言われなくてももう戻るっての」
それでいて俺との仲は相変わらず険悪だ。
まぁ今は前ほど嫌いではないけど、ルリのこと淫乱クソビッチ豚と言った挙句、黒板に携帯番号を書いて危険に晒したことを、ルリ本人が許したって俺は絶対に許さない。
そもそも根本的にこいつとは合わない気がする。
チビブタと睨み合ってると教室の入り口にいたクラスメイトに、ルリが呼ばれそっちに目を向けた。
「ルリー!久瀬先生が呼んでるー!」
久瀬と言う名前に教室がざわめく。
みんな詳細は知らないとはいえ、状況を見た何人かの生徒から噂は広まっていた。
実習生とグルになってルリを殴って自宅謹慎になった、と。
もう謹慎明けたのだと皆、物珍しそうに教室の入り口でデカイ体を縮こまらせてるゴリラに目を向けた。
「はぁーい」
ピリッとした空気の中、当のルリは能天気な返事をしてテテテっと入り口に向かう。
雅人から聞いた話だと実習生が騙しただけでゴリラも被害者らしいけど、俺はそうは思わない。
ルリの今にも折れそうなガリガリの体をマウンテンゴリラみたいな体で殴りやがって。
心配だから教室から離れる二人をそっと後ろからついていった。
____________
「すまなかった」
立ち入り禁止になってる方の屋上に続く階段の踊場で周りに誰もいないことを確認するとゴリラがルリに頭を下げた。
「え、いや、そんなゴ…久瀬先生が悪い訳じゃないですし、もう治ったんですから、頭をあげてください」
ルリ今ゴリラって言おうとした?
頭を下げられたことに焦ったのかルリはわたわたと早口に言う。
「いや、お前の話も聞かずに本当に悪かったと思ってる。教師失格だ」
よくわかってんじゃねぇか。
二度とそのツラルリに見せんな。消えろ。
「いえいえ、オレでもあの状況なら女性を優先して話を聞くと思いますし。オレも男なんで殴られるくらいどうってことないですよー」
ふざけんな。
何が男だから大丈夫だよ。その辺の女よりずっと細い体してさ。
ルリのこういうところ、マジでムカつく。
「すみません、オレが泣いちゃったから余計な負担かけちゃいましたね。泣いたのも殴られたからじゃなくて、色々重なってただけなんです」
「………アンジェリー………」
ゴリラがようやく顔をあげて、ルリがホッとしたように微笑んだ。
「丁寧に謝りに来てくれてありがとうございます。オレも気にしてないので久瀬先生も気にしないでください」
「ありがとう……」
どこまでも甘いルリの言葉に、壁にもたれて思わず舌打ちをする。
なんで許してやる必要があんの。
てか、なんで寧ろごめんなさいとか言ってんの。
謝ったのだって、自分が楽になりたいだけだろ。
二人の話が終わって、教室に戻る雰囲気だったから俺も一足先にその場を離れて教室に向かった。
チビブタはもうすでに自分のクラスに戻っていて、次の体育にむけてほとんどの生徒が着替えを済ませている中、雄一がジャージを片手に近寄ってきた。
「ルリの後ついてったんだろ?どうだった?」
「戻ってきたら説教だよ。あのお人好し」
「ははっ。想像ついたわ」
乱暴にジャージを机に置いて俺も着替えを始めるとルリが戻ってきた。
「次体育かー」
何事もなかったようにカーディガンを脱いで着替えを始めるルリに文句を言おうと口を開くと、ルリが俺を見てにこっと笑った。
「純ちゃんの覗き魔~」
「!? 気付いてたのかよ?」
「壁から純ちゃんのパーカーの端が見えてたよー。えっちー」
だったら話は早い。
「ルリ!お前さぁ、なんであんなに甘いの?許す必要ないだろ!あいつはお前の話も聞かずに殴ったんだろ?」
苛立ちをそのまま声にのせて言うとルリが困ったように笑う。
「久瀬先生は七海先生を守ろうとしただけなんだから、別にいいよ。あの人も被害者じゃん」
「被害者はお前だけ!あほか!」
「そんなこと言われても、オレ自身怒ってないんだから仕方ないじゃんー。それに教師って立場でこんな悪い噂出回って可哀想なのは久瀬先生だよ。オレが率先して誤解を解いてあげなきゃ」
こいつのこの博愛精神ほんとイラッとさせられる。
体育が終わった瞬間、ソッコー月城にチクってやる。
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