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訪問者
「ルリー。久瀬に殴られたって噂で聞いたけど大丈夫だったわけ?」
校庭への移動中、4人の生徒が心配と言うよりは、わくわくしたように話しかけてきた。
人見知りってのもあるけど、こういう人の不幸は蜜の味って奴ら苦手。
あからさまに顔をしかめる俺をルリが背中に隠してにこっと明るく笑う。
「まじでー?そんな噂になってんの?
あれねぇ、七海先生の嘘に騙された久瀬先生が七海先生を守ろとしてオレを振り払ったんだけど、オレが大袈裟に避けて転んじゃったんだよねー。久瀬先生に触られてすらないよー」
興味津々に聞き耳を立てていた他の生徒にも聞こえるようにルリがいつもより大きな声で、呼吸をするように嘘をつく。
おい!と言おうとしたけど、ルリにそっと手で制された。
「まじで?ルリどんくせー」
「あはは。いや実際かなり恥ずかしいコケ方だったよ。恥ずかしすぎて泣きそうだったもんオレ」
「ダサさの二重重ねだな」
「てか七海先生って結局なにしたの?実習中止って中々じゃね?」
「それはオレもよくわかんない。オレのこととは関係ないみたいだよー?何したんだろうねぇ」
しらばっくれてんじゃねぇ!あの女の正体言いふらしてやればいいだろ!
ルリの自虐ネタに明るい雰囲気で皆が笑う。
イライラしすぎて、ルリに肩パンすると、それすらネタへのツッコミだと思われ笑われることに怒りは膨張した。
もう終わったことだし、ルリの言ってることはわかるけど、ゴリラの自業自得だろ!
ムカつく!
雄一だけが俺の気持ちをわかってくれたように肩をポンと叩いてきた。
しかも。
「はい。じゃあ二人一組になって柔軟体操してください。
一人余るから余った生徒は先生とな」
まだまだゴリラの生徒を殴り付けた教師と言うイメージは強く皆は避けるように急いでペアを作り始めた。
そんな中、ルリがオレに雄一と組むよう言ってゴリラの元に近寄っていく。
「せんせ、オレと組もー」
殴った相手に殴られた相手が自分から近寄る姿に周りがざわついた。
ゴリラ自身、戸惑っていて気まずそうに頷く。
「まぁ、ルリってあーゆー奴だから」
雄一は慣れてるのか、特に気にした様子もなく柔軟を始める。
俺はどうしても腑に落ちなかった。
「アンジェリー、体柔らかいな」
足を広げて座るルリの背中を上から押さえつけるようにゴリラが押すと、ぺたーと上体が床に付くほど曲がる。
なんか、ルリがやるといやらしく見えるよな。
その柔らかい体と月城との夜を想像してしまうからだろうか。
だから余計に、そういう意味がなくてもゴリラに触られることにむかついて仕方ない。
触んな。
イライラして、つい雄一を押す手に力が入る。
下から痛い!痛い!と悲鳴が聞こえたけれど、ルリに夢中でうるさい!って余計に押さえつけた。
「オレが柔らかいんじゃなくてごりりんが重いんじゃん。苦しいよー」
「ご、ごりりん……!?」
ぶはっと笑いが一気に広がる。
不覚にも俺も笑ってしまった。
久瀬は生徒から距離を置かれてることを気にしてたのか笑われて満更でもない雰囲気にアダ名がごりりんで定着した。
いやいや、そんな和やかな空気許さねぇから。
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