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来訪者
「知らない番号からだ…」
千に画面を見せながら言うと、千が顔をしかめる。
「取らなくていいだろ」
「んー、いや一応取る」
「お前は本当に何も言うこと聞かないな」
千の呆れた声に、あっほんとだ。と思いながらも画面をスライドしてしまい電話が繋がった。
「はい。もしもし」
『Recherll?』
日本ではもう全然聞かなくなった、本来の発音の自分の名前を一瞬聞き取れなかった。
「え、あ、Yeah」
『This is Tom!』
ト、トム!?
戸惑いながら答えると、興奮気味に嬉しそうな電話の相手の声と、トムと言う名前に記憶の中で相手が思い浮かび顔がひきつる。
『会いに来たぞ!リチェール!』
『は!?会いに来た!?』
英語で声を張るオレを千が眉をひそめて見ている。
『親切な人に電話を借りてる!迎えに来い!』
『まって。状況に追い付けないんだけど。なに、日本にいるの?』
『そう!早く来い!』
『ちょ、ま……っばかなの!?』
唐突すぎる相手に焦ってしまう。
トムはこういう奴だったと痛む頭を押さえた。
色々と状況は追い付かないけど、とにかく親切な人に電話を借りてるならそこに向かわなければと急いで立ち上がった。
『今どこ?』
『お前の高校!あのクソジャップと同じとこだろ?』
『……次ゆーいちをそう呼んだら怒るって言ったよね?』
『いーから早く迎えに来い~!お腹すいたんだけど!』
知らないよ!と喉元まで出かかってぐっとこらえる。
脱いだばかりのコートを掴んで学校の鞄から財布だけ取り出すとポケットに突っ込んで玄関に向かった。
『とりあえずその携帯貸してくれたって人に変わって』
お礼と謝罪をしなければ…と頭であれこれ考えてると千が後ろから手を引いて止めた。
ああ、そうだ。10時過ぎのこの時間に一人で出歩くの千が許してくれるはずがない。
「H……Hello」
電話を変わった相手のぎこちない英語に日本人だと判断する。
あまり英語も上手そうじゃないのに、本当に親切な人だな。
「あの、僕その子の友人でアンジェリーと言います。この度は大変ご迷惑を……」
「へ!?ア、アンジェリー?」
…………え?
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