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来訪者
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校門へと続く坂のふもとに二つの影が見えて千に車を停めてもらった。
『トム!』
車を降りて駆け寄ると記憶よりも少し大人びた顔付きの同級生がパッと顔をあげて嬉しそうに駆け寄ってくる。
『リチェール!お前来んのおせーし!』
『うるさいバカ!話はあと!』
ああ、この能天気でマイペースな所は相変わらずだと小さくため息をついてトムを小突くと目の前で気まずそうに千に会釈をしてる久瀬先生に頭を下げた。
「久瀬先生オレの友人がご迷惑をおかけして本当にすみません!」
「いやいや全然。アンジェリーの昔話聞けてよかったよ」
あれ?トムって日本語喋れたっけ?
とにもかくにも、早く久瀬先生を帰らせてあげなきゃ。
なにより久瀬先生のことで、千とさっき軽く揉めた手前気まずい。
「こんな遅い時間に本当に失礼しました。今度改めてお礼をさせてください」
千が淡々と挨拶をして、軽く頭を下げると久瀬先生が焦ったように手をブンブンふった。
「いやいやいや!溜まってた仕事でたまたまこの時間まで残ってただけなんで全然平気ですよ。お礼なんてとんでもない」
ゴリラみたいなゴツい体格の男が、細身の千にペコペコくる姿ってなんか変なの。
てか、千や久瀬先生にまで迷惑かけたバカはこっちの気も知らず、まだー?とかお腹すいた~とか言ってるし。
久瀬先生にもう一度オレからもお礼を言うとトムをつれてその場を離れた。
『来るなら来るで前もって言えよ!何やってんの!』
『前もって言ったらサプライズじゃなくなるだろ。
てかお前が帰国する度だれとも会わずにさっさと帰りすぎなんだよ』
悪びれた様子もなくふんぞり返って笑うトムと、何も言わずトムを車に招いて運転してくれてる千の両方に気がとられ学校とバイト終わりだと言うのにこの日一番の疲れを感じた。
『とりあえず今日は遅いし帰ろう。明日1日くらい学校サボって付き合うよ。ホテルどこ?』
『リチェールん家に泊まるからとってねぇ』
『……っの、ばか!オレ、今人の家に居候してて家ないし!まって。すぐホテル探すから。オレもそこ泊まってやるし金も出すから』
だからこれ以上千に迷惑をかけるのはやめてくれとスマホで付近のホテルを検索すると、ずっと黙っていた千が横からオレのスマホを取り上げた。
『挨拶遅れたけど、リチェールの恋人の月城。泊まるとこないなら家来るか?』
さらっと流暢な英語を喋る千に、トムが後ろから身を乗り出して、いいの!?と食い気味で答える。
それから少し遅れて『恋人!?』とオレの肩を掴んできた。
『まぁ、うん』
なんだか友達に知られるのは気恥ずかしくて、小さく答えるとトムが分かりやすく顔をひきつらせた。
『お前ってゲイだったんだな』
『いいだろ。別に』
オレも自分がゲイになるなんて思ってなかったよ。
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『ふーん』
車から降りて、家に入ると品定めするように千を上から下まで舐めるように見るトムは失礼にも『変態のわりに悪くないね』とふんっと鼻を鳴らしたので頭をスパンと叩く。
『いって!何すんだよ!』
『失礼すぎる』
『はぁ!?褒めたんだろ?』
『どこが!?』
千は大人だから、これくらいじゃ怒らないってわかっててもやっぱり悪く言われるのはムカつく。
しかも靴をはいたままどかどか部屋に入ろうとしたから慌ててとめて客用のスリッパを差し出した。
『なに?一々靴履きかえるの?めんどくさい』
『これ以上文句なるなら今からご飯作ってやらないからな』
『はぁ!?あほか!俺のためにさっさとパエリア作れノロマ!
俺シャワーしてくるから、その間に作っとけよ。ほら、シャワー室どこ?』
これがオレの家なら許せる。全然許せる。
でもここは千の家でそこをこう好き勝手するわがままな姿に文句を言おうと口を開くと千の声に遮られた。
『そこの右のドア。タオルも置いてあるから好きに使え』
『ん。サンキュ』
短く答えると上機嫌にトムは浴室に向かった。
嵐が去ったようにシンとなった廊下で千がふっと笑う。
「前々から思ってたけど、お前英語だと少し口悪いよな」
「それゆーいちにも言われるー。千、本当にごめんね。できるだけ早く帰らせるから」
「いい。イギリスに佐久本以外の友達がいたってわかって安心したよ。わざわざ会いに来てくれたんだろ?」
「でも、あいつ失礼すぎるし……」
「まぁさすがに2人でホテルに泊まりに行かれるのは認めねぇけど、あとは好きに遊べよ。
俺が保護者だからって授業も全部受けるようになったのは感心してるけど、たまにくらいサボっていい」
ほら、お小遣いと財布から2万も取り出す千を慌てて止める。
「いい、いい!千が養ってくれてるお陰で全然普通にお金貯めれてるし、気持ちだけもらうね、ありがと!」
大した金額じゃないとグイグイ渡してくる千を断固断ってキッチンに向かった。
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