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置き去りのバレンタイン
リチェールside
ピピッピピッ
目覚ましの音がして、ゆっくり意識を覚醒した。
隣を見ると千がいて、ほっとする。
ちゅっと頬にキスをすると千を起こさないようにそっとベットを抜け出した。
顔を洗って歯を磨きながらぼーっと今日の計画をたてる。
トムは昨日体調崩してたし家で寝ていてもらって、オレは学校に行こう。
トムがどれだけいるかわからないけど、さすがに連日サボって遊び歩いてたら、保護者である千のイメージがよくない。
熱もなかったし一人で大丈夫だよな。
夜中に起きたのか、シンクには空になったお皿もあったし、食欲はあるみたい。
きつそうなら今日まで休むけど昨日の様子だと多分大丈夫だ。
口をゆすいで、タオルで押さえる。
「よし。まずはアイロンから」
この朝の時間は、結構好きだ。
千と自分のシャツにアイロンをあてて、今日の千のスーツを選ぶ。
水色のシャツにしたから、ネクタイも合わせてネイビーのものを用意した。
制服に着替えて、シャツの裾を捲ると、いつもの白地に水色のストライプのエプロンをつけた。
冷蔵庫の中を確認して、今日の朝食とお弁当のレシピを考える。
目玉焼きとベーコン。それから温野菜のサラダに、卵スープに、クロワッサンをトーストして簡単に朝食は出来てしまう。
お弁当はワカメごはんと、鮭フレークごはんと、コーンバターライスで三色のおにぎりを楕円形に作って真ん中を海苔で包みお弁当箱の半分に詰める。
タコさんウィンナーを逆さにしてお花に見立てるのはもう定番になっていた。
上はミートボール、下はうずらの卵をカラフルな串で刺して二つずつ詰めて、野菜も忘れずカラフルに見えるようパプリカを使ったりして、あと純ちゃんが美味しいって言ってくれたカニカマを入れただし巻き卵も詰めて完成した。
今日はトムのも含めてお弁当は3つ。
ふたを開けたまま冷ましてる間に千を起こしに寝室に向かった。
カーテンを開けると、朝日が漏れて眩しさに千が顔をしかめる。
「おはよう、千。朝ですよー」
「ん……」
ん、て言いながら布団をかぶり直してまた寝ようとしてるし。
昨日、オレ途中で寝ちゃったけど千何時まで起きてたんだろ。
「千ー。起きてくんないとちゅーしちゃうよー?」
さらっと少し癖のある黒髪に手を伸ばす。
「わ……っ」
その手を突然ぐいっと引っ張られ千の上に倒れた。
「おはよ」
至近距離の美顔に、びくっと体が硬直して顔がカーッと熱くなる。
「ふ、普通に起きたこと伝えてくれない!?」
「今日も朝から真っ赤だな。ゆでタコさん」
クスクスと意地悪に笑う千に余計に顔が熱くなる。
絶対わざとだし。
「トム起こしてくるからね。千早く顔洗ってきてー」
「ハイハイ」
ようやく起き上がって首をコキコキ鳴らしながら洗面所に向かう千を見送って、ベットのシーツを軽くキレイに伸ばして、オレも部屋を後にした。
客間に向かってドアをコンコンと二回ノックする。
『トムー。起きてるー?』
そっとドアを開けて近寄ると、スースーと寝息を立ててぐっすり眠るトムを軽く揺すった。
『トム、起きろー。朝ごはん出来てるよー』
『……っるさい。まだ寝る』
うわ、不機嫌な声。
まだ体調悪いのかな?
それならやっぱり今日まで休んで看病するかな。
でもさすがに二日連続休んだら純ちゃんが突撃してきそうだと苦笑いをこぼす。
『トムー。具合どう?朝ごはん食べれそう?』
ポンポンとトムの体を撫でながら言うと、不機嫌さ全快で布団の中なら唸る。
そういえば昔から寝起きは機嫌最悪だったな、と苦笑する。
『返事しろよー』
しつこく体を揺らすと、ガバッと起き上がって完全に据わった目を向けてきた。
『朝ごはんは食べる。お前うるさい。学校いけ。昼飯も作って行け』
短くそれだけ答えてまたばふっと頭まで布団を被る。
『トムー。具合がいいか悪いかだけ答えろよー』
『眠いっつってんだろ!』
『わぷ』
枕をばふ!と顔面に叩き付けられ、何すんだよ!と顔をあげるともう布団のなかだった。
ヤドカリかよ、こいつは。
とりあえず、元気ではあるみたいだし、ただ単に寝不足なだけかな?
それならいいや、と客間を後にした。
リビングに戻ると、千も眠そうにタバコを片手にうつらうつらした目で新聞を睨むように見ていた。
コーヒーを煎れ、千のそばに置くと朝食を並べた。
「千、眠たそー。ごめんね、やっぱりオレ達迎えたせいで遅くまで仕事してたんでしょ?」
「いや、仕事自体はそうでもねぇよ。昨日は少しトムと喋ってて寝るのが遅くなっただけ」
「え?トム?」
「車で寝すぎて眠くなかったんだと」
「うわー。千お仕事あるのにごめんねー。オレのこと起こしてくれたらよかったのに」
「お前の昔話も聞けて楽しかったよ」
「え、なにそれ怖い」
突然来た友達を泊めてもらってるだけで申し訳ない気持ちもあるのに、さらに睡眠妨害まで。
千は気にしてないと笑ってくれるけど、今日だって仕事なのに。
思わず頭を抱えてため息をつきながらエプロンを外して、千の正面に座る。
とりあえず、二人でいただきますと手を合わせた。
今日は夜トムが寝るまで起きててあげよう。
だから、あんまり昼寝しすぎないでほしいと心の隅で願いながら学校に向かった。
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