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置き去りのバレンタイン

「Recherll、イギリスにいばしょ、ないってニホンに逃げたけど、ココデモそうナンだな」 また胸がズキッと痛む。 ご両親のこと大変だったなと言った俺に、アンジェリーは明るく笑って首をふった。 "月城先生のお陰で日本で穏やかに生活できてるんで大丈夫ですよー" 逃げ出した先で保護してもらってるだけ。 アンジェリーは、本当に心からだれかに愛されたことあるのだろうか。 だから、あんな風に誰にでも優しく八方美人なんじゃないか。 そんなに気を使わなくて大丈夫だよ、ちゃんと素のお前を愛してくれる人は見付かるから。 秋元は本当にちゃんとアンジェリーを愛してるのか? 大切にしてるのか?  授業をサボって二人でいるところを見かけたとき、じゃれてるように見えたけど、押し倒されたアンジェリーの顔は青ざめていた。 今さら、そんなことに気付くなんて。 秋元にキスされたとき、どうでも良さそうで投げやりで、とにかくこの場から離れたいと言っていた。 ああ、なんか、無性にあの子を抱き締めたい。 くそ、と熱くなった顔をしかめてしまう。 親と元々知り合いだったからとか曖昧な理由でアンジェリーを引き取った月城ではなく、俺が一緒に暮らして普通の幸せをあげたい。 一方的な気持ちをぶつける秋元ではなく、俺があの子に歩み寄って包んであげたい。 思い出したら、止まらなかった。 アンジェリーのいつも張りつけてる柔らかな笑顔を思い浮かべて胸が締め付けられる。 「……俺がアンジェリーの居場所になってやる」 そう呟くと、トムくんが静かに口元に笑みを作った。 「オレ、千がほしいんだヨネ……」 利害一致と言いたいのだろうか。 こんなトムくんにすらちょっとムッとしてしまう。 アンジェリーをまるで邪魔とでもいうようなことやめてほしい。 友達にまでこう言われた、可哀想だ。 そんなことをすぐ考えてしまうくらい、自覚してしまえばもう一気にアンジェリーに夢中になっていた。 夢中になって周りが見えなくなるのは、七海先生で終わりだと深く反省したけど、今回は見えてる。 あざとく迫られたわけじゃない。 アンジェリーは俺を利用しようとなんてしてない。 むしろあの子になら利用されたっていいと思う。 居場所がほしいなら、愛を求めるなら、どこでもいいなら……俺にしろ。

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