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置き去りのバレンタイン

近くのファストフード店に入って温かいミルクティーでホッと息をつく。 例えば、本当にトムが千を好きだとして言っていたとして、イギリスに帰るのだからなんでもない話なのかもしれない。 トムのことと千のこと混ぜて考えちゃだめだ。 オレが不安になるのはオレが弱いからで、そこにトムは関係ない。 夕方、イラついてたとはいえ千にあんな態度とっちゃたから不安になってるんだ。完全に自爆じゃん。 「はぁ……」 いっぺんに考えちゃだめだ。 まずは千にちゃんと謝って、仲直りして、ぎゅーってしてもらったら、きっとまた心も丈夫になるからそれからゆっくり話をしよう。 揉めてもいいから離れるなと言ってくれた。 きっと帰ったら千は迎え入れてくれるはずだから。 腕時計を見ると九時を指していた。 そろそろ、帰ろう。 イギリスにいるころとは違う。オレにはもう帰るところがあるんだから。 あの二人がどんなに仲よさそうにしてたって、千とオレとの問題だ。 少し、自分が強くなったことに、ふと小さく笑う。 「アンジェリー?」 すこし温くなったミルクティーをもう一口飲んで立ち上がろうとすると聞き覚えのある声に呼び止められた。 顔を上げるとトレイを持った久瀬先生が優しい笑顔で立っていた。 「こんばんは。こんな時間に一人か?」 久瀬先生のことで千と少し揉めたから、若干気まずい。 「あー、久瀬先生。こんばんはー」 へらっと愛想笑いを返すと、久瀬先生はそのままオレのテーブルに腰を下ろした。 「こんな遅くだし、食べ終わるの少し待ってろ。送る」 「へ!?いいですいいです。月城先生の家すぐそこなんで」 だめだめだめ。万が一にも千に見られたら火に油注ぐようなものだし。 「でも……」 「ゆっくり食べていてください。お声がけありがとうございます」 では、と会釈をして席をたつと、そのままそそくさとそとに出た。 ドアを押して開けた瞬間、下で座っていた高校生くらいの男の子たちに当たってしまう。 「いてっ」 「わっ、すみません!気付かなくて……」 見るからにガラが悪そうで、しまった……とすぐ謝り逃げるように立ち去ろうとする。 けれど、後ろから抱き締めるように止められてしまった。 「ちょっとちょっとー。それはないんじゃないー?俺骨折したかもなんだけど?」 いやあんな出入口を塞ぐように座ってたらあんたらが悪いだろ。 そう思うのに、よく確認もしないでぶつけてしまった手前なにも言えない。 「すみません」 「うわっ、てか君かわいくない?ハーフ?日本語上手だねー」 さらに二人に前に回られ、逃げ場を失う。 最悪……。 てかこいつらはなにがしたいんだよ。 俺ら悪いやつだぜアピールを身内同士でやってて楽しいかよ。 「オレ、男です……」 「え、絶対うそだしー。ねー、ぶつけたお詫びにちょっと今夜付き合ってよ」 「すみません。急いでるんで……」 「ははっお前らそれくらいにしとけって」 「ちぇっ。じゃーまた気が向いたら俺らと遊んでね」 引いてくれたことにホッとして、ぺこっともう一度会釈をする。 後ろから抱き締めてきてた人の手から力が抜けた瞬間、怒声が響いた。 「俺の生徒に何してやがるっ!!!!!」 男の子たちはもちろん、オレまでびくっと揺れて振り替えると、檻から放たれたゴリラのような迫力の久瀬先生が怒りに震えながら立っていた。 いやいや。もうまとまった話だからほじくり返さないで、と頭を抱える。 生徒という単語から、このゴリラのような大男が教師ということがわかり、男の子たちがしどろもどろと慌てて、久瀬先生がずんずん近付いてきた。 「いや、先生……オレがドアをぶつけちゃって……」 「来いアンジェリー!!」 咄嗟に男の子を庇うとぎろっと久瀬先生に睨まれ乱暴に腕を捕まれる。 痛いくらいの力でそのまま引っ張られ無理矢理歩かされた。

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