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置き去りのバレンタイン
千side
何かあると不安になって暴走するリチェールに二日に一度の頻度である告白を一々報告しろって?
無理だろ。
絶対泣くし。
それに俺は割りとハッキリ断ってる。
だからそこで終わりだ。
でもリチェールを好きになるやつはみんな、しつこくタチが悪いやつらばかりだし、さすがにもうレイプとかさせてたまるか常に気を張っていた。
親父さん抜いても2回はあるぞ。
それなのにあのバカガキは。
しまいには、本気で縛り付けてやりたくなる。
あの脳ミソわたあめ小僧がたまにムキになる時は、本当に厄介で今回も売り言葉に買い言葉と俺たちらしくない喧嘩までして学校では離れた。
久瀬は多分少し優しくしたら勘違いするようなタイプだから近付けたくないんだけど。
リチェールからバイトが入ったとメッセージが届き、そもそも俺が酒を出すところでのバイトを快く思ってないことも忘れるなという意味を込めて返信をしないでいた。
リチェールがバイトでいないなら、仕事を進められるところまで進めようとパソコンを開き、トムのことを思い出して閉じた。
外国で放置はさすがに可哀想だし、リチェールのイギリスでの話、また聞きたいしな。
家に帰ると、腹が減ったと喚くトムが、まるでリチェールの真似をするようにリチェールのエプロンをつけてキッチンに立つ。
別にリチェールは友達だし気にしないだろうけど、なんとなくそこにリチェールじゃない人物が立つことに違和感があり、外食することにした。
家につくと、蒼羽から草薙さんのところで飲んでるから一緒に飲もうって連絡が来てすぐに断りのメッセージを送る。
"リチェールが休みだからつれないんだーケチ"
「……は?」
届いたメッセージに思わず固まる。
休み?ありえないだろ。
もう9時だぞ。
外で見つけたリチェールは久瀬といて、イラついた。
また、なにかに巻き込まれたのはわかるけど、俺にバイトだって嘘つく必要あるか?
とにかくリチェールと二人で話がしたい。
それなのに、トムがキャンキャンリチェールを責め立てて正直、鬱陶しい。
浮気なんかするわけないだろ、リチェールが。
そう思うのに否定もしないで、ごめんなさい、とだけ呟いて走って逃げていくリチェールに時が止まるようだった。
すぐにハッとして、あいつを夜道で一人はさすがに危険すぎると走って追いかけたけれど、トムが"浮気するやつなんてもうどうでもいい!"と邪魔したことと、リチェールが小さい体を利用して細くて複雑な道に走っていったことから完全にはぐれてしまった。
あいつムダに足早すぎる。
「……なんのごめんなさいだよ」
電話を何度してもリチェールはとらなかった。
『千、可哀想。リチェールもひどいよな。あんなやつ友達だなんてもう思えない』
顔をしかめて舌打ちするトムの頭にぽんと手を置く。
『リチェールがそんなことするわけないだろ。信じてやってくれ』
そう微笑むと、トムはまど納得してないように顔を一層しかめた。
リチェール。お前ほんと損な性格してるよ。
俺はもうリチェールのこと信用しきってるから、疑ったりはしないけど。
勘違いされたって仕方ない。
何に怒って何に怯えたのかわからないけど、いい加減俺にはそういうの全部さらけ出したっていいだろ。
つい、深いため息が溢れる。
それにいい加減、あの臆病者の逃げ癖なんとかならないものなのか。
腕時計に目をやると、10時前になっていた。
自分がどれだけ危険を誘う容姿をしてるか自覚しろって俺はあと何百回言えばいいんだよ。
『……言おうかどうか悩んだんだけど』
ボソッとトムが迷いながら口を開く。
『リチェール、よくあのクゼって奴の話ばかりするし。千のこと過保護すぎてきついって愚痴ってるよ……』
『は……』
思わず体が一瞬固まる。
ありえない。と思いたくても、トムが嘘をつく意味もない。
俺達の仲をこじれさせてリチェールをイギリスに連れて帰ろうとしてるのか。
それにしては、いやに今回のことに当てはまる内容だ。
トムが悲しそうに言葉を続けた。
『俺はリチェールの友達だけど、千にも恩がある。だからお節介はこれを最後にするから聞いて。
リチェールは、もう気持ちが動いてるよ。やめときなよ』
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