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置き去りのバレンタイン

「な、なに……?」 震えてしまった声で聞くと、久瀬先生は気まずそうに顔を離す。 それでもオレを抱き締める力は緩まず近い距離に、嫌な緊張感が走る。 「久瀬先生、離して?こわいよー?」 どうにか笑って茶化しながら離れようとしても、グッと力をいれられる。 ……てか、なんか、密着した体からなんか、伝わるんですけど。 この人、なんでおっきくなってんの? 気持ち悪さに拍車がかかり、だんだん焦りが募る。   「ごめん…好きだ」 顔を赤くして苦しそうにポツリと言う久瀬先生に、え、と頭が真っ白になった。 「大切にする。俺ならお前を泣かせないから」 真っ直ぐな言葉に、心臓をグッと刺さった。 久瀬先生が?オレを? 嘘だ、と思うけど、真剣な顔にそれが本当なのだと思い知る。 ……思えば、オレは今まで乱暴に感情をぶつけられるばかりで、こうして言葉から真摯に想いを向けられたことがなかった。 もしかしたら、本当に千のように大切にして、千を忘れさせてくれるかもしれない。 ______でも。 「……ごめんなさい。 オレはフラれても、月城先生が他の人と付き合っても、 それでも月城先生が好きです」 忘れたくない。 ツラくても悲しくても。

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