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嘘つきトライアングル
リチェールside
ハッキリ断ると、久瀬先生は動揺したように瞳を揺らした。
『リチェール!』
それから、なにか言おうと久瀬先生が口を開こうとした時、遮るように名前を呼ばれた。
声の先にはトムが息をきらして立っていて、千の服に目がとまり、さっきのセリフが甦る。
エッチしたあと先に寝てしまうオレが冷えて風邪を引かないようにと服を着せてくれることに愛情を感じていた。
あの人の優しさがオレだけのものじゃないと知っていたはずなのに。
『なんだ……二人、もううまくいってたんだ?』
ホッとしたように言うトムに焦って体を突き放す。
トムから、千に伝わることが嫌だった。
『ちがう!オレが好きなのは千だけ!』
何に対してのアピールなのか自分でもよくわからない。
こんなこと言ったって、千はもうオレに気持ちはないのに。
ああ、こんなことなら、昨日離れるんじゃなかった。
喧嘩しても、やるせない気持ちをぶつけてしまってもそばにいるべきだったのに。
チョコ一つで仲直り出来ると思ってたとか、ばかみたい。
「そういえば、トムくん。話って?」
オレ達の英語でのやり取りがわからない久瀬先生はオレとトムのピリピリした雰囲気に割って入ってくれた。
「……ああ、センが、リチェールとはイッショに住めないカモってイウから、ソウダンにのってホシクテ」
「は!?」
久瀬先生が大きな声をあげて、オレも息を飲む。
……千は本当にオレから離れようとしてるのだろうか。
今までの記憶がわっと溢れる。
こんなにもあっけなく終わるものなのだと、頭がついていかない。
「月城先生無責任だな!!」
久瀬先生の大きな声にハッとした。
顔を赤くして千を悪く言う久瀬先生に首をふる。
悪いのは、オレだ。
「オ、オレから離れたんです。だから月城先生のこと、悪く言わないでください」
そう。オレから離れたんだ。
仕方ない。これはもう、仕方のないのことだと必死に自分に言い聞かせ納得しようとした。
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