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嘘つきトライアングル
久瀬side
バタバタと遠くなっていく足音にアンジェリーがほっと息をつき、カッと頭に血がのぼる。
俺を押さえようとしていた手を振り払い、左頬を力一杯殴り付けた。
気が抜けたのか、アンジェリーは簡単に床に叩きつけられその小さな体の腹を思いっきり蹴飛ばし馬乗りになってさらに拳を降った。
「バカにしやがって!!バカにしやがって!!」
何度も、何度も拳を叩きつけるたび拳は血で濡れていく。
愛してた。
それなのに、また、俺は利用されただけだったなんて。
トムくんを逃がして目的を達成したのか、無抵抗になったアンジェリーに感情のまま拳を降り下ろす。
涙もボタボタと零れアンジェリーに落ちた。
「う……っ……っく」
口からも鼻からも血を流し、大人しくなったアンジェリーを目の前に、声を殺して泣く。
赤くなった拳が、じんじんと痛かった。
「愛してたんだ……」
本当に。
気持ちを利用されたって、愛してた。
そして、その気持ちが初めてイコールで帰ってきたと嬉しかったのに。
ギリっと唇を噛み締めると、アンジェリーが小さくなにかを呟いた。
「…めん……ね……」
「………あ?」
よく聞こえなくて、前髪を掴んで無理矢理目を合わせる。
「ご、めんね……なか、な、いで……」
振り払ったとき、胸を強く打ったのか、ひゅーひゅーと息も苦しそうにアンジェリーがそう呟く。
泣かないで?
こんな大男が泣くのは、さぞ滑稽だろう。
「愛してたんだ……愛して、ほしかった……」
やり場のない思いから、この憎くて愛しい体をぎゅっと抱き締める。
ああ、だめだ。
どうしたって、好きなんだ。
ムカつくのに。許せないと思うのに。
それでいて、アンジェリーは悪くないってわかっていても。
この苦しくてどうしようもない気持ちをぶつけるように、ぐったりした細い体を折れてしまうんじゃないかと思うほど強く抱き締めた。
アンジェリーはゆっくり手をあげてる。
振り払おうとしてるのかと思ったその手は俺の背中に回された。
「…………は?」
そのまま宥めるように背中を撫でる。
「……あ、いして、くれて……ありがとう………」
か細い鈴のような声で、アンジェリーが呟いた。
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