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嘘つきトライアングル

トムside リチェールのスマホを握ってひたすら走った。 頼むから、無事でいてくれ。 いくらリチェールが喧嘩強いからってあの体格差で勝てるはずがないことを知っていても、俺の臆病な体をひたすら自分の無事のためだけに走り続けた。 怖い。 リチェールが傷付くことも怖いけれど、リチェールが負けて久瀬が俺を追ってくることが。 あんな状況でも散々傷つけた俺を逃すために体を張ってくれたリチェールを思い浮かべて涙がじわっと溜まった。 俺は最低で卑怯者だ。いつも自分のことばかり。 でも、 でも……。 リチェールに無事でいてほしいって気持ちは本物なんだ。 イギリスで置き去りにされたあの日だって、何度も戻ろうって思った。 誰か大人を呼ばなきゃって思ったのに、腫れ物扱いされてるあの家で頼れる大人なんていなかったんだ。 でもそんなの全部言い訳だよな。 俺が卑怯で臆病だから、いつもその気持ちを行動に移せない。 リチェールの家庭環境を後になって知って、今度こそリチェールを俺が助けてやりたいって思ったはずなのに。 どうして同じことの繰り返しになるんだよ。 なにも変われてねぇじゃん。 いつもいつも俺はリチェールを傷だらけにする元凶だ。 苦しい感情の中、千の家が見えてくる。 ほっとして足を止めると、リチェールのスマホが鳴りっぱなしだったことに今さら気が付いた。 画面を見ることもなく、それがだれかわかって無我夢中で叫んだ。 『リチェールを助けてくれ!!!』 俺は助けてあげられない。 それを苦しいほど痛感した。 あの日、リチェールの手を握らなかったのは俺だったのだと今更になって気付いた。 守ろうと手を伸ばさなかったくせに、握って欲しかったなんて、むしがいいよな。 もうわかったよ。 俺がどれだけよわくて、姑息な人間かということは。 もうわかったから、苦しさから解放きてくれ。 だから、だれか。 リチェールを助けて。

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