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嘘つきトライアングル
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駆け付けた千は、しゃくりあげながら話す俺の頭をぽんと一度撫でると一言「わかった」とだけ言って案内した久世の家に躊躇うことなく進んだ。
千の表情は相変わらず読み取りにくいけど、この間より少し荒い運転や全然笑わないことから焦ってる様子が滲み出ている。
家につくと、千は待ってろと言って久世の家に早足に向かった。
『ま、まって……!』
怖くて仕方なかったけれど、千と一緒なら不思議と安心感があり震える体を奮い立たせてあとに続いた。
「リチェール!」
千に次いで乗り込んだ部屋の光景に全身の血の気が引いた。
久瀬が泣きながらきつく抱きしめるリチェールは血だらけでぐったりと意識がない。
「つ、月城先……」
「どけ!」
俺までびくっとする迫力に久瀬がしりもちをつく。
久瀬に放されたリチェールは無抵抗に床に崩れ落ち、慌てて久瀬が抱き直そうと手を伸ばした。
その瞬間、ドゴッ!と、重たい音が響いて、久瀬のでかい図体が壁に打ち付けられた。
信じられない光景に、息が止まる。
筋肉はしっかりついているとはいえ、久瀬と比べたらずっと細身の千が、ゴリラのようにでかい図体の久瀬を殴り飛ばした。
巨体が吹っ飛ぶ威力に、唖然とする。
「気安く触んじゃねぇ」
決して怒鳴ったわけでもないその低い声は、人を殺しそうなほどの恐ろしい色を纏い、久瀬は顔を真っ青にさせて肩を振るわせる。
固まる俺や久瀬にはそれ以上目もくれず、リチェールを大切そうに抱き上げた。
「リチェール!」
その声に反応するように、リチェールが微かにぴくっと揺れる。
「………せん………?」
意識がちゃんとあるのかないのかわからないけれど、リチェールは弱々しく千に手を伸ばしてぎゅうっと抱き付いた。
「千………っ!」
いつも、どんな状況でも、へらへら、へらへら笑ってたリチェールが涙を流す姿に息を飲んだ。
俺の嘘にまんまとひっかかって離れていったリチェールを見て薄情だと少し思った。
その程度の気持ちなのだろうと。
それなのに、意識があるのかないのかわからないこんな状況で初めて泣いて千にすがる姿は見ていて痛々しいほどこ思いで溢れていた。
お前って、そう言う奴だったよな。
自己犠牲精神の塊みたいだと思ってたとこは、やっぱりなにも変わってない。
「……久瀬先生。このことは追って連絡します」
千がリチェールを抱き抱えて立ち上がり、久瀬を冷やかに見下ろすと、久瀬は弱々しく頷いた。
そのまま急いで病院にむかい、肋骨にヒビは入っていたけれどそれ以外のひどい傷はないとドクターがいった。
リチェールが眠る部屋に案内され、ホッとしたようにその頬を撫でる千の優しい表情に、今度こそハッキリと俺の初恋が終わりを告げた。
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