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嘘つきトライアングル
リチェールside
バタバタと騒がしい中、意識が薄れていく。
救急車の音が聞こえて、ダメ、と思った。
久瀬先生が暴力を振ったと世間にバレたら、今度こそ教員免許剥奪されちゃう。
久瀬先生はなにも悪くないのに。
ああでも、息苦しさが段々ひどくなって、もう息してるのかどうかさえ朦朧とする意識ではわからない。
万が一、ここで死んでしまったとして、オレはそれでもいいけど、それこそ久瀬先生の人生も終わりだ。
それならしっかり怪我を直して、意識戻してからうまく庇った方がいいのかなぁ。
………死んでしまったとして、だって。
これくらいで死ぬはずがないけど。
もし、このまま目を覚まさなかったら。
そう考えて思い浮かぶのはやっぱり千ただ一人。
生まれて初めて愛されて、あんなにも大切にされた。
うん、幸せだった。
今度は、オレにくれた幸せを千がだれかから貰えますようにと願って、胸の痛みを怪我のせいにした。
………ほんとはその愛情をオレが返したかった、なんて贅沢だ。
千の声が聞こえた気がして思わず手を伸ばした。
そんなこと、ありえないのに。
でもいい夢だ。
「………う」
目が覚めると、そこは真っ白な天井。
ああ、そろそろ慣れてきた。
病院かな、と顔を横に向けると切羽詰まったような表情の千がオレを見下ろしていた。
「リチェール!」
そして、夢か現実かわからないまま、懐かしい匂いに包まれていた。
「せ……っ」
名前を呼ぼうとして、ズキッと頬に痛みが走り言葉を止める。
なんで千がいるの?
トムが呼んでくれたのかな。
ぎゅうっと大切そうに力強く包んでくれる千に、じわっと涙が溜まる。
だめだ。泣くな。
千にはもう新しい人がいるんだから、泣いて困らせちゃダメ。
「せ…月城先生。ご迷惑おかけして……」
ぴくっと微かに千の体に力が入り、体を離され不機嫌な瞳と視線がぶつかった。
「いい加減にしろ!本気でいっぺん閉じ込めねぇとわかんねぇのか!」
「ひんっ!」
普段滅多に声を荒げることのない千の怒鳴り声にびくっと体が跳ねる。
な、なんで、怒るの?
そっか、別れたからって、まだ千が保護者ってことは変わらないから大きく迷惑をかけてしまったんだ。
「ご、ごめんなさい……迷惑かけて、トムまで危険な目に合わせちゃって」
早口に謝ると、千が苛立ちを吐き出すように深いため息をついた。
「今、お前の話してるんだけど?」
オレの言葉を遮る厳しい声に、どんどん頭が冷静さを失わせていく。
とにかく謝らなきゃ。
「月城先生に迷惑かけたのは、ごめんなさい。でも、オレのことは気にしないで、トムと……」
千とトムのことばかり考えてしまうからか、言葉がまた探るようにトムの名前を口にしてしまい言葉を止めた。
「トムとなんだよ」
「………その………」
「俺とトムが仲良く付き合えばいいって?」
「……………っ」
いやだ、と泣き付きたい。
オレのことは気にしないでと言わなきゃいけないのに、声を出したら泣いてしまいそうで固く口を結んでうつむいた。
「リチェール、顔あげろ」
低い声でそう言われたけれど、会わす顔がなくて動けない。
「あげろっていってんだよ」
顎を持ち上げられ、また目が合う。
「___っん、で、そんなに怒るの……っ」
千の怖い顔なんて見たくなくて、ついに涙が溢れてしまった。
「千……きら、いに、ならないで……っ
わかれたく、ない……いっしょに、いたいよ……っ」
ついに溢れた涙は止まらず押さえてた言葉まで出てしまい、気がつけばすがるように千の服をつかんでいた。
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