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嘘つきトライアングル
俺が泣き止んだ頃、千がそっと医師と室内に戻ってきた。
リチェールはびくっと不安そうな顔をして俯く。
どうしてこんなに愛されてるのにこいつはこんなにも脆いんだろう。
すごく勿体ないと思う。
壊そうとした俺が言えることじゃないけど、二人の関係をつつくなら、間違いなくリチェールが弱点だ。
千はあんなにも頼もしくて、一途なのに、どうしてそれが信じられないのだろう。
「アンジェリーさん、起きてよかったよ」
医師がリチェールを見てにこっと微笑み、リチェールも合わせるように「ご迷惑をおかけしました」と会釈をする。
「はは。今時日本人でも中々いないくらい礼儀正しいね。具合はどう?息苦しさとかない?」
「大丈夫です」
「うん、よかった。肋骨にヒビは入ってたけど、そこの骨は回復も早いし、2週間くらい安静にしてたら大丈夫だから、また息苦しかったりしたら来てね。今日は痛み止だけ出しとくねー」
「わかりました」
「じゃあお大事に」
「お世話になりました」
慣れてるのかスラスラと言う医師にリチェールは笑ってまた頭を下げた。
ほんと、日本人みたい。ペコペコしてさ。
リチェールがベットから降りると、千はなにも言わずその体を支えた。
リチェールは少し気まずそうにしながらも、素直に千に身を委ねて、まるで捨てられないよう縋るようにきゅっと千の服の裾をつかんでいた。
俺がいるからか、二人はなにも話さないで病室で出て、待合室に向かう。
会計で呼ばれるまで、少し時間がかかるようだったから二人きりにしようと俺はトイレだと言ってその場を離れることにした。
きっと、戻ってくるまでには仲直りしてるのだろう。
不思議とそんな安心感があった。
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