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嘘つきトライアングル

千side トムが気を遣って席を外すと、俯いていたリチェールがそっと顔をあげる。 その表情は怯えた子猫のようで、不覚にも可愛いと思えてしまい口を手で覆った。 「千…あの、何から謝っていいのか……勝手に勘違いして、千の話も聞かないで、叩いて逃げ出してごめんね」 こう改めて纏められると、中々すごいなと他人事のように思えてしまう。 反省してることは見てわかるし、グダグダ怒るのは好きじゃないけど。 「それだけ?」 「え?」 「謝るところそこじゃないと思うけど」 リチェールは困ったように、オロオロと視線をさ迷わせる。 右の頬に大きく貼られたガーゼを撫でるとぴくっと怯えたように身を震わせた。 「久瀬の家に何で行った?」 「あ……ごめんなさい……」 「なにまたこんな怪我作ってんだよ」 「そんなに痛くないよ?」 また、こいつは。 思わずリチェールの襟をつかんでぐっと引き寄せた。 「この体はだれのものか、わかってんの?怪我つくんな」 「は、い……」 顔を赤くしてびっくりしながらも頷くリチェールの髪をため息をつきながら撫でる。 これだけストレートに伝えてるのに、どうしてリチェールはいつまでもネガティブで俺の気持ちを信じれないのだろう。 浮気を疑われて逃げられたことはそれなりにショックだった。 「千、あの……オレこんなに振り回してばかりなのに、見捨てないでいてくれてありがとう」 ほら、また。 見捨てるわけないって、なんでわかんないかな。 リチェールは頭もいいし、強い子だと思う。 それなのに俺のことになると途端に弱くて脆くなる。 だからいつも、バカみたいな暴走をするのだろう。 「リチェール」 「なに?」 「愛してる」 リチェールの瞳が動揺したように揺れる。 それからタコのように真っ赤になって抱き付いてきた。 「オレの方が愛して……っ」 俺に抱きついてヒビのはいった肋骨が痛んだのか胸を押さえて顔をしかめるリチェールに思わず笑いがこぼれる。 どうしようもねーな、と俺がもう一度抱き締めると、腕のなかでリチェールが胸に頬をすりよせた。

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