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嘘つきトライアングル
しばらく撫でてると、少しは安心したのかリチェールがそろそろと顔をあげた。
その表情はどこか俺の機嫌を探るように見つめていて、ピンとくる。
多分、久瀬のことを聞きたいんだろう。
でも久瀬を心配したら、俺に怒られると怯えてるんだ。
「せ、千……あの……」
「久瀬のことだろ?」
あまりにもリチェールが怯えるから、言葉を被せてしまう。
案の定、リチェールは気まずそうにまた俯いて、当たってきたことがわかる。
「千、怒らないで聞いてくれる?」
「十中八九怒るけど言ってみろ」
不機嫌ながらも笑って見せると、リチェールは気まずそうに笑顔を引き攣らせる。
「トムとちゃんと久瀬先生にごめんなさいってしてきていい?」
「だめ」
笑顔でバッサリ即答すると、リチェールはショックを受けたように固まる。
当たり前だろ。
骨にヒビ入るほどの容赦ない力で殴ったような知性ついてるか怪しい脳筋ゴリラの元へうちの可愛い子猫を会わせるとか正気じゃない。
「く、久瀬先生、悪くないのに殴ってごめんって謝ってくれたんだよー?」
「あいつを庇ってもお前へのお仕置きが増えるだけだぞ。諦めろ」
リチェールは、うーっと上目遣いで俺を睨むけど、正直怖くねぇし、俄然そそる。
「久瀬先生どうなったの?まさか通報とかしてないよね?」
誘拐、暴行、監禁。これだけされててよく言えたな。
してないけど、本来なら通報しててもおかしくない出来事だ。
それだけのことをされた自覚がないんだろう。
リチェールの気持ちはわからないこともない。
俺は同じ大人としても教師としても久瀬のことを弁解の余地はないと思うけど、久瀬はまたも悲惨な騙され方をしたんだし、カッとなっても仕方ないとリチェールは言いたいんだろう。
「ちょっと会って話するだけだから」
「だめ」
「お願い」
「しつこい」
「千、お願い……」
「…………」
やっぱり、リチェールはズルい。
なんだかんだ言って、俺がリチェールに甘いことを本人もわかってるんだろう。
結局俺はこうしていつまでも心配事が尽きないんだろうと、諦めてため息をついた。
「電話だけだからな……」
リチェールの表情がぱっと明るくなり、また俺に抱き付いてくる。
天使のような笑顔に騙されそうになるけど、こいつは小悪魔だ。
それでも俺はまた何度もこの笑顔に騙されるんだろう。
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