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軟禁チョコレート

久瀬先生とのことがあって2週間。 トムは帰ってしまい、もう2月も終わろうとしていた。 鏡の前で、右の額に貼られた正方形の大きい絆創膏をぺりぺりっと剥がした。 顔に出来た傷はほとんど綺麗に治った。 ここはまだ残ってるけど、これくらいなら前髪で隠れるよね。 普段は使わないワックスを手に取り、長めの前髪を揺れないよう傷が隠れる位置で固定して、リビングに戻った。 「千、今日は早く帰るっていってたのになぁ……」 お医者さんにヒビが入ってるから2週間安静にと言われたからか、ここ2週間トムのお見送り以外家から出してもらえなかった。 しばらくは咳をしても痛かったアバラの痛みが引いてからもまだダメだと言ってオレを置いて一人学校にいく。 なんか、専業主婦になった気分。 いつもはあるお仕置きもないし、あの日の恐ろしさはどこへやら怒ってる様子はなかった。 ただ、なんとなくよそよそしいと言うか、違和感のある雰囲気で、やっぱりまだ怒ってるの?と言っても、違うと言うし、本当にごめんねといってみても頭を撫でられるだけだった。 純ちゃんも毎日電話をくれるくらい寂しがってるから、そろそろ学校にいきたいのに。 バイトだって、確かに顔の傷が酷かったにしても2週間は休みすぎだと思う。 草薙さんは快く承諾してくれたけど、申し訳なさすぎて胃に穴が開きそうなくらいだ。 安静にって言われたけど。 最初の数日を乗り越えたらあとは肋骨の痛みも我慢できるくらいになったのに。 今日は金曜日だから、もう2週間たったし来週からは絶対学校に行きたいと強く言ってみよう。 そう決意してると、ちょうど鍵が開く音がして玄関にむかった。 「お帰りなさーい。お仕事お疲れ様」 ぱたぱたと駆け寄ると、千はポンポンと二回頭を撫でてくれる。 相変わらずこうやって優しいけど、あの日以来千とは恋人らしいことをなにもしていなかった。 もやもやの原因はたぶん、この触れられてないことも不安要素の一つ。 一緒に寝るけど、ぎゅーはしてくれない。 ちゅーもオレからしかしないし、深くはしてくれない。 でもこうやって撫でてくれる手付きは優しいから、前にお腹刺されたときに口を聞いてくれなかった時のような感じなのだろうか。 ……それとも本当に、愛想つかされた、とか。 こんな不安は多少乱暴にでもいいからかき消したいと思うのオレの悪い癖なんだろう。 「千、ご飯にするー?お風呂にするー?」 ちゃんと呼び止めて聞くことは怖く、笑って冗談めかして千に抱きついた。 「…それともオレー?」 千が何を考えてるのかわからない無表情で固まる。 抱きついた状態で目があったまま、約3秒。 あ、すべった。 そう悟ると同時にカーっと顔が熱くなる。 「今のなしで」 ぱっと顔を背け離れようと千の体を押すとグッと抱き締められた。 「リチェール、お前怪我は?」 「へっ?」 怪我? あ、ガーゼとったこと? 「そんなの、もう……とっくにほとんど治ってる、けど……?」 千の考えがわからず途切れ途切れに探るように答えた瞬間、視界がぐらんっと反転した。 「わ……っ」 体が大きく揺れて思わず千にしがみつく。 千は軽々とオレを片手で担いで廊下を進んだ。 「えっ、えっ」 もしかして、オレ選ばれたの? いや、自分で言っといてなんだけど、心の準備ができてない! けれど、千の向かった先は寝室ではなくリビングで、しかもキッチンでおろされた。 「へ……?しないの……?」 拍子抜けしてしまい、千を見上げる。 「するよ」 ふっと千が妖艶に微笑み、思わず見とれていると千の手がゆっくり延びてきて、 オレのズボンと下着を一気にずらした。 「───っきゃああああ!!!!」

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