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軟禁チョコレート
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お気に入りの白地に黄緑のストライプ柄のエプロン。
洗濯して乾かしてる時のために黒いエプロンもあるけど、これがお気に入りだった。
これをつけると、よりいっそう家事が楽しめるようだった。
………それなのに。
湯煎で溶けたチョコレートに生クリームを足しながら混ぜる。
早く終わらせたいのにこんな単純な作業すら、ガチガチに緊張して時間がかかってしまっていた。
視線が痛いほど刺さって、そろーっと振り向く。
ばちっとスカイブルーの瞳と視線がぶつかって、恥ずかしさが増した。
「せ、千~。やっぱり服着たい……」
いわゆる、裸エプロンという格好をさせられ、もう恥ずかしさの限界だった。
「ダメ」
けれど上機嫌に笑った魔王に却下される。
誰だこんな提案したの。
雅人さんかな。前ふざけて裸エプロンでもしたら、許してもらえるよーとか言ってた気がする。
男の裸エプロンなんてキモいだけに決まってるのに。
だって、オレは千のこと大好きだけど裸エプロンを見たいなんて思わない。
だからお仕置きなのだろう。
次から同じようなことしないよう反省させるため、辱しめる的な。
もう十分反省したから、許してほしいと思うのに、千は信用してくれていないらしい。
なにも準備してなかった限られた材料のなかで、あの日のタルトよりいいものを一生懸命作ろうとするけど、手は震えるし恥ずかしさで涙が滲んだ。
コーヒー風味のビターなザッハトルテをメインにしてその横にココアメレンゲクッキーを飾ろう。
頭のなかでレシピも手順もバッチリなのにいつものようにさくさくいかない。
もう溶かしたチョコレートをそのまま渡したいくらいだった。
覚悟を決めて、手を止め千に近寄ると、するっと千の膝の上に滑り込んだ。
「千、お願い。もう反省したから、許して……?」
泣きながらお願い。と言うと、千は高確率で許してくれる。
そんな一縷の望みを込めて見上げると、にこっと優しく微笑まれた。
「許してほしかったら早く作ってこい。
いい加減待たせると手ぇ出すぞ。弄られながら作るの、嫌だろ?」
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