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天邪鬼
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「ルリ!」
翌日、マンションのエントランスを走り抜け、車から降りて待っていたルリに飛び付いた。
「純ちゃーん。久しぶりー」
よたつきながら受け止めてくれるその体は相変わらず細く、優しい匂いが鼻を掠めた。
「お前骨は!?もういいの!?」
「うん。元々ほんのちょっとヒビが入っちゃっただけだからー。純ちゃん相変わらず可愛いねぇ」
俺を見てほにゃーっと柔らかく笑うこの顔がたまらなく好きだ。
2週間、本当に長かった。
「ルリ、お前月城に監禁されてたんだろ?大丈夫だったか?寂しかっただろ!」
「うん。純ちゃんに会えなかったのは寂しかったけど、専業主婦になったみたいで楽しかったよー」
ルリを返せと保健室に突撃する度、まだ反省中だからだめ。監禁しとくと言っていた月城とは対照的に能天気に笑うルリに拍子抜けしてしまう。
「お前なぁ、俺がどんだけ心配したと……」
「いつまでくっついてんの。純也がプラネタリウム行きたいって言ったんだろ」
ぽこんと、雅人に頭を小突かれイラッとする。
昨日の喧嘩のことを根に持ってるのか雅人はまだ少し不機嫌だ。
「千くん、今日は誘ってくれてありがと。よろしくねー。ルリくんも久しぶり」
一瞬俺にだけ見せた不機嫌さを隠して二人に笑顔で挨拶する雅人の後ろ姿にべーっと舌を付き出した。
進路のことをあれこれ口だしてきた雅人に、最終的にお前に関係ないだろと、吐き捨てたのはさすがに少し反省したけど、俺のお菓子を全部手の届かない棚の上に放り込んだことは、許さない。
向こうが謝るか、お菓子を返すかするまで絶対仲直りなんてしてやるもんか。
「雅人さんと喧嘩したのー?」
車でしばらく走らせた先の水族館でクリオネを見ながらルリが静かに耳打ちをしてくる。
ちらっと雅人を見ると、月城と少し離れたところでなにやら楽しそうに話をしていた。
更に俺の見てる目の前で女の子数名に話しかけられ、愛想よく笑っている。
俺はモヤモヤしたままなのに、なに楽しそうにしてんだとイラッとする。
「知らねーよ!あんなやつ!いこ!ルリ!」
俺は今日ルリと遊びに来たんだ。あんなやつどうでもいい。
「わっ、だめ。あの二人から黙って離れたら怒られ……っ」
「そうそう何してんの、純也」
少しだけ普段より低い声が聞こえドキッと動きを止める。
こっちなんて見向きもしてなかったはずなのに、雅人は俺を真っ直ぐ見据え威圧的に微笑んでいた。
うるさい!と言い返したいのに、前回の失敗からさすがに四人でいるときに喧嘩はしないよう睨むだけで目をそらした。
「ごめんねー、雅人さん。久しぶりに会えたからはしゃいじゃったー」
「ルリくん、庇わなくていいのに」
呆れたように笑いながら、ルリの頭にぽんっと手を置く。
俺には昨日の喧嘩から一切触れてこないのに、なんだこいつ!
無性にそれにムカついて、その手を力一杯振り払った。
「ルリに触んな!」
そう睨み付けて、ルリを抱き締める。
雅人の顔が不快そうにぴくっと歪んだ。
「はい!純ちゃん!素直にヤキモチ妬きましたーって言おう!喧嘩だめ!」
ルリが焦ったように笑って俺と雅人の間に入る。
「オレも千と雅人さんが今可愛い女の子に絡まれててムッとしてたし、いやだったよねぇ。だから雅人さん、そんな怖い顔しないでー?」
素直なルリに、雅人もバツが悪そうに辛うじて笑って頷いた。
それから、俺の頭を優しく二回撫でる。
「ごめんね、純也。せっかくルリくんと久しぶりに会えて楽しそうなのに、昨日の喧嘩気にしてるのは俺だけかって子供みたいにイライラしちゃった」
優しく謝ってくれる雅人に、ぐっと胸を締め付けられる。
俺も、俺ばっかり気にしてると思ってた。
「俺も、関係ないってのは言い過ぎた。ごめん」
向こうが謝ってくれたら言おうと決めてた言葉を伝えると、雅人は優しく「うん」と微笑んでくれた。
こんなにも簡単に仲直りできるのに、どうして俺と雅人には喧嘩がたえないんだろう。
それに、ルリも雅人もなんでこんなに素直になれるのかも不思議だ。
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