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天邪鬼
雅人と月城が戻ってきて、リチェールが嬉しそうに笑顔を月城に向ける。
「おかえりなさい」
「ん。変なのに絡まれなかったか?」
「大丈夫だったよー。ありがとう」
俺ならこんな個室に押し込められて、かけられようがねぇだろって嫌味のひとつも言うと思う。
素直に心配してくれてありがとうと言うルリを月城がぽんぽんと撫でていた。
その姿に、この二人なら大丈夫だとぼんやり思う。
ルリはよく問題に巻き込まれるし、変なところで素直じゃないけど、月城に大切にされてそれをありがとうと素直に受け入れて。
安定感があると言うか、なんと言うか。
「純也、どうしたの?なんか暗くない?お腹すいた?」
心配そうに覗き込んでくる雅人に、なんでもないと顔を背けた。
俺は雅人といて落ち着くし好きだけど、ずっと一緒にいれるはずがない。
それは間違いなく俺に原因があるんだろう。
「純ちゃん次何したいー?」
ルリが俺の腕に抱き付きながら言ってきて、気を使わせてるなって思う。
やっぱり顔に出てるよな。
ルリなら、上手に笑ってうまく誤魔化すんだろう。
そもそも高2にもなる男が母親の一言で一喜一憂してるのも、おかしな話だ。
ああいう人だって、わかってたはずなのに。
「……温泉いきたい」
それでも母さんを追うように、そう口にしていた。
「温泉?」
「うん。日帰りでいいから」
しばらく帰らないと言っていたから、遠くに行ってるはずだし、この辺の日帰り温泉で会えないのは分かってるけど。
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