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天邪鬼
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「純ちゃん、あれなにー?オレやってみたーい」
足湯を指差して、ルリは明るく俺の手を引っ張った。
ついた温泉は日帰りでいいと言ったのに一泊することになり、結構立派なそこは当日予約と言うこともありそれなりの料金だったはず。
それなのに雅人も月城も嫌な顔ひとつ見せず連れてきてくれた。
「ルリくん、足湯は温泉卵食べながらが定番なんだよー。でも、懐かしの卵アイス売られてたからそっちがいいかな?」
「オレ生卵ちょっと苦手ー。アイスにする〜」
二人が俺が落ち込んでるから盛り上げてくれてるのはわかるのに、いつも俺はもう大丈夫だということをどう取り繕ったらいいのかもわからない。
月城だって、なにも言わず着いてきてくれている。
別に母さんなんていなくたって、寂しくない。
昔からだし慣れてる。
「純ちゃん卵アイスだって。風船にアイス入ってるの珍しいよねー。これ知ってる?」
「うん、卵アイス、懐かしい」
そう言って買ってもらった卵形のアイスを手に取ると、雅人とルリがホッとしたように微笑んだ。
「足、いれたらいいの?熱くない?熱くない?」
少し怯えたようにお湯と月城を交互に見てルリは、ようやく足をいれ、二人でならんでアイスを食べた。
「きもちいいねー。足湯って、オレ初めてー。純ちゃんは?」
「俺も初めて」
「このあとの温泉も楽しみだねー。露天風呂っていうの入ってみたいー」
卵アイスも初めてだったのか馴れない手付きと小さな口で、ちぱちぱ吸うルリの姿が可愛くて思わず笑ってしまった。
「どうしたのー?」
「いやお前、ママのおっぱい飲んでるガキみたい」
くくっと笑ながら言うと、ルリが「純ちゃんも同じ姿になってるしー」と笑う。
そう言えば昔は卵アイスが好きでよく食べた。
いつから食べなくなったのか。
たしか俺も同級生に同じようにからかわれやめた気がする。
俺が好きだと言ったものは、大体次の日大量にまとめ買いされていて、うれしかったけれど段々理解していく。
これでしばらく大人しく留守番できるだろって意味だったんだろう。
だって、母さんはいつも家にいなかったから。
「ぷひゃっ」
小さな悲鳴にハッと顔をあげる、
ああ、また母さんのこと考えていた。
やだやだ。と首を降ってどうした?とルリの方を見ると、思わず吹き出した。
「純ちゃん~。爆発したぁ」
そういえば、爆発アイスとも呼ばれていた気がする。
食べ終わる頃の、風船が一気に圧縮することによる定番の爆発に顔や手のあちこちに白いアイスをつけたルリがショックに固まって俺を見ていた。
「ぶっあははは!!卵アイス食べるの下手かよ!」
「笑うなよー。うえー、べたべたー。千~」
月城の元へ行くルリの背中を見ながら、さっきの間抜けな顔を思いだし笑っていた。
ルリが行くと月城は呆れたようにしつつも、やさしい顔でルリを迎えていた。
おしぼりで拭いてもらってる姿を横目に、足でお湯をぱしゃっと跳ねさせてぼーっと一人遊びをしていると雅人が隣に来た。
「純也は上手に食べれてる?」
ルリの顔を見たからか、クスクス笑ってる。
「卵アイス食うのプロだよ、俺は」
「あはは。原野プロ。俺にも一口ちょうだい」
雅人があーん、と俺の持つ卵アイスに雅人が口を近づける。
別に雅人が買ってくれたものだし、一口くらいと風船の先を向けた。
赤い舌が先の尖りに触れそうなとき、その姿が、なんだかエロく見えてドキッと体が強ばった。
「わぷっ!」
力んでしまった手に絞り出されたアイスは、まるでデジャヴのように雅人の顔にかかった。
「純也ぁ~……」
雅人のアイスがあちこちに飛び散った半笑いの顔に、またぶはっ!と吹き出してしまった。
「ご、ごめ……っ!はは!」
「ま、いいけどさぁ」
雅人も俺の頭を撫でながら呆れたように笑う。
雅人といるとドキドキして落ち着かない時も多いけど、こうして心から安心して笑えるときも多い。
うん、やっぱ俺こいつのこと、かなり好きだなって思う。
そのことが、怖くなるほど。
「千くーん俺も拭いて~」
「自分で拭け」
「ルリくんばっかずるいー」
「えへへー。千はオレのだもん」
ルリの真似をして月城に甘えに行く雅人の背中を見つめて一通り笑って、小さくため息をついた。
俺は雅人のものじゃないし、雅人だって、俺のものじゃない。
どう頑張ったってルリと月城のような関係にはなれないんだろう。
そう思うと、わかっていたはずなのになぜだか暗い気持ちになりうつ向く。
「え?純也?」
その瞬間、聞こえるはずのない声に名前を呼ばれ、どきっと心臓が大きく跳ねた。
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