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天邪鬼

ルリが親を笑って許せたのは、お前が優しかったからで強かったからだ。 だから、親との関係を少しでも暖かいものに変えられた。 ルリほどのことはなかったのに、悪化させてる俺はなんなんだろう。 そして心配してくれたルリを傷付けてなにがしたかったんだ。 ルリから逃げるように来た道を戻る。 すぐルリに謝らなきゃ。 ルリなら話したらわかってくれる大丈夫。大丈夫……。 ……本当に?あんなにも酷い言葉を浴びせたのに? ルリのオレに向ける柔らかい笑顔を思い出して、鼻の奥がツキンと痛んだ。 もう、あんな風に俺に笑いかけてくれないかもしれない。 ルリは優しいから、あからさまに避けたりしないだろうけど、俺のことが可愛くて仕方ないって顔で抱きしめたり、顔をくしゃくしゃにして笑ったり、頬をすり寄せてくるルリに今まで、照れて振り払ってばかりだったことを今更になって後悔する。 どうしよう。 ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てたまま元の道を開いた。 「原野?リチェールは一緒じゃないのか?」 先程の場所に、雅人はいなく月城だけが心配そうに立っていて、この人の顔を見た瞬間、堪えていた涙がぼろっと溢れた。 「つ、つきじろ~……ごめ……っルリに、ひどいこと言ったぁ……っ」 わっと泣き出した俺に、月城が動揺したように早足に寄ってくる。 絶対ルリを傷付けた。 早くルリのところに行ってほしい。 そう伝えたいのに涙が邪魔して上手く言葉にならない。 月城は動こうとせず俺の頭をぽんぽんと撫でた。 「原野。リチェールなら大丈夫だからそうやって自分を責めて泣くな。その方がよっぽどあいつは悲しむよ」 「うう~……っ」 俺なんて、ルリに気遣ってもらう価値ないのに。 ルリの優しさに散々甘えておいて、酷いことばかり浴びせた。 「…… ち、父親に、レイプされて……母親に身代わりにされてたお前に、なにがわかるって……言っちゃった……っ」 「あー、いい、いい。あいつは自分がされたこと重く受け止めない癖があるから、定期的につついてやれよ」 本当は他のやつにルリをこう言われたら、絶対怒るだろうに、月城は苦笑して俺の頭を撫でてくる。 「……っそんな資格ない……!俺が……っ」 俺が全部悪かった。 だからルリ、戻ってきて。 いつもみたいに、純ちゃん大好きって抱きついて欲しい。 ボロボロ次から次へと涙が流れた。 「お前がリチェールのこと大切にしてくれてること、わかるからだろ。俺だってムカついたらあいつにひどいことすることあるから。それにリチェールがお前のこと嫌いになるはずないだろ?」 だから泣くな、と月城は俺の頭をわしゃわしゃと撫で回した。 そしてその手がゆっくり外され、安心する匂いに包まれた。 「ルリ君になにかあったら純也がもっと泣いちゃうでしょ?千くん早くルリ君の所行ってあげなよ」 見上げると、不機嫌そうに笑う雅人に抱き寄せられていた。 そういえば、どこに行ってたのだろう。 月城は呆れたように一度鼻で笑って、俺が歩いてきたばかりの坂を降って行った。

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