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天邪鬼

純也side 俺は昔から誤解を解くのが苦手だ。 母さんの時だってそうだった。 夜中べろべろになって帰ってくる母さんを起きて待っていた時、母さんはうんざりしたようにため息をついた。 「まだ起きてたの?」 酒臭くて、呂律も回ってない。 そんなに迷惑そうにされるとは思わなかった。 「今トイレで起きただけ。酒臭い」 母さんは一瞬傷付いた顔をして目をそらした。それ以上はなにも言えなかった。 だって、夕方になったらまたのそのそ起き出して優しい母さんに戻るから。 「おはよー。あと、おかえりー」 「ただいま。声、ひどいね」 酒やけ、と笑って言う母さんにほっとしてそばに座った。 「寂しい思いさせてごめんね、純也。学校ではうまくいってる?」 「うん、楽しいよ」 「そう。明日の授業参観必ず行くからね」 笑ってくれた母さんに嬉しい半面、泣きたくなった。 落書きだらけのボロボロにされたノートや教科書をランドセルにいつも隠して、明日来てくれる母さんにバレないようにしなきゃと不安でその日の夜はちゃんと寝れなかった。 ドキドキして迎えた授業参観は、母さんは誰よりも若くて派手で目立っていた。 周りの保護者からはヒソヒソされて、なんていうのかな、水商売してるっていうのが、にじみ出てる格好だったからか、それを自分の親から聞いたであろう同級生からのいじめはひどさを増した。 「お前の母さん恥ずかしい仕事してるんだろ!」 「男といちゃいちゃしてお酒飲んでお金もらってるんだってよ!」 「だからお前も女みたいな顔なんだよ!気持ち悪ぃー!」 女顔とか、チビとか言われてる間はまだよかった。 でも、次の日、何度も吐きながらそれでも俺のために夕方には笑って仕事にいく母さんをバカにしてほしくなかった。 「バカにすんな!!!」 俺の母さんは恥ずかしくなんかない。 一番手前のやつを突き飛ばして、すぐに押さえつけられる。 「いってぇな!ほんとのことだろ!」 「おい、押さえてろ!俺がやっつけてやる!」 なんとかライダーだかなんとか戦隊だかしらないけど、その日はわけのわからない必殺技を叫びながら何度も殴られた。 「なにその怪我!大丈夫!?」 心配した母さんに、大丈夫だと答えると、先生に言うって言うから、焦ってしまったんだ。 「母さんは関係ないよ!いつもみたいに放っておいてよ!」 ひどいことを言ってしまったと気付いたのは、悲しそうに固まった母さんの表情を見てからだ。 ごめんね純也と笑った母さんに、それ以上なにも言えなくて唇を噛み締めた。

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