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天邪鬼
「寂しい思いさせてごめんね。お父さんいなくて寂しいよね」
「べつに」
俺は寂しくないよ母さん。
母さんがいてくれたらそれでいい。
母さんを傷付けて捨てた男なんていない方がいい。
それなのに、母さんはたまに俺が寝静まった頃、男を連れ込んで寂しいと泣く。
俺は母さんがいてくれたら十分だけど、母さんはそうじゃない。
「母さんのお仕事は恥ずかしいことなの?」
俺はそうだと思ってない。
女手ひとつで育ててくれて、感謝してる。
俺を育てるために早くから年を偽って夜のお店で働いた母さんにありがたいって思う。
「うん。恥ずかしいお仕事だよ。だから純也はちゃんとお仕事を選んで自分のしたいことをしてね」
そう言った母さんにひどく裏切られた気持ちになった。
俺を育てるためにしてくれたことを恥ずかしいなんて言わないでよ。
まるで俺がいたせいで、この仕事をするしかなかったみたい。
俺のせいで不幸みたいな言い方しないで母さん。
「純也、最近どう?学校は楽しい?」
「別に。普通」
俺は大丈夫だから、幸せになってほしい。今からでも。
「純也が前好きだって言ってたクロワッサンいっぱい買ってきたよ!」
「べつにもう好きじゃない。こーゆーのもう大丈夫だから。仕事いってらっしゃい」
また前に一度美味しいと言ったものを大量に買ってきて、出掛けようとする母さんに気を使わせないよう突き放す。
「純也……前行きたいって言ってた映画……」
「いいよ。大丈夫。友達といくし」
友達なんて、いないけど。
日曜日に動物園とか、遊園地とかに行けなくたって、二日酔いを我慢して夕方から一緒に行ってくれる公園は唯一の楽しみだった。
でも、もういい。
母さんに恥ずかしいことしてほしいわけじゃない。
寂しいって男の人に泣いてすがってほしくない。
「純也、お金足りてる?」
「大丈夫だって」
いつからか、会話はこれだけになっていた。
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