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天邪鬼

純也side 「ちょっと自販機行ってくる」 ルリが戻ってくると聞いて、思わず逃げるように部屋をあとにした。 仲直りしたいけど、心の準備ができてない。 だってあんなにも冷たい顔のルリ初めて見た。 向き合える自信がない。 意気地無しな自分にため息をつく。 でも、ルリはやっぱり特別だし、このまま諦めることなんてできない。 小銭を取りだしココアをふたつ買った。 ガコンと落ちてきた温かい飲み物を取って、スマホを取り出した。 喧嘩したのは初めてだ。 いつも俺が一方的に拗ねて、わがままを言って理不尽に怒って。 そんな俺をルリはいつも笑って甘やかしてくれた。 だから喧嘩にはならなかったけれど、今回はちゃんと俺から謝りたかった。 雅人や月城には頼らずに二人っきりで話そう。 ルリみたいに大人にはなれないけど、いつまでも甘えてなんていられない。 恐る恐るルリの携帯番号にかけると、すぐそこで着信音が聞こえた。 え、と顔を上げと、数メートル先で金髪の後ろ姿がポケットからスマホを取り出していた。 「ルリ!」 振り返った手には、ココアがふたつ握られていて、それが雅人や月城へのものじゃないこと分かりで胸がぎゅっと痛んだ。 「じゅ、純ちゃん……」 純ちゃんって呼ばれるだけで、気持ちが緩みそうになる。 「ルリ、あの………っ」 「あっれー?あれ、純也じゃね?」 ルリに一歩踏み込んだ時、後ろから第3者の声が聞こえ足が止まった。 振り返って相手を映すと思わず体が固まる。 そこには小学校が一緒だった男子生徒が二人の男をつれて俺を見ていた。 親のことや、容姿のことで散々いじめられた記憶が甦り、じわりと冷や汗が滲む。 こいつが中心で色々といじめられた。 忘れようのない顔と名前。 「だ、大介君……」 昔の癖でつい君をつけてしまう。 それが悔しくて小さく舌打ちをした。 「相変わらず女みたいな顔してんな」 ケラケラ笑いながら近付いてきて、思わず一歩後ずさる。 母さんに買ってもらった鉛筆も消ゴムもノートもぐちゃぐちゃにされて、ひどい言葉で埋め尽くされ、靴を隠されたときは靴下のまま冬の寒い道を歩いた。 「なぁ、お前相変わらずいじめられてんの?」 楽しそうにニヤニヤ笑って見下ろしてくる顔を強気に睨む。 母さんに気付かれて心配されないよう、母さんが帰ってくるまでに泣きながら体に書かれた落書きを痛いほどスポンジを擦り付けて落とした嫌な記憶が次々と甦って唇を噛んだ。 「純ちゃん……?」 俺の不穏な様子を感じ取ったのか、ルリが心配そうに近付いてくる。 こんな姿、見られたくない。 いじめられてたことなんて、知られたくない。 ……もし、ルリが俺の立場なら、笑って昔のことなど許すのだろう。 この場をやり抜くことすらできない自分が恨めしい。 「なに?純也の彼女?超かわいいじゃん。もったいねぇー」 「てかこの黒髪の子が男なのも意外。俺こっちがタイプだわ」 「へぇ、俺は金髪かな」 品定めしてくるような目が不快で仕方ない。 昔のことなんて思い出すな。 ルリがいつだったかひどいことをされて笑って許したとき、俺がやり返せよと突っかかると、あれくらい笑って許さなきゃダメだよと言われた。 "どうせ人にしたことは自分に返ってくるんだから、人間ちょっとやられっぱなし位が丁度いいんだよー" ルリの台詞が頭に浮かび、ふーっと気持ちを落ち着かせるように息をついた。 ルリのように優しくもなれないし、大人にもなれない。 でも、そうなりたいって思った。 「ごめん、大介君。俺たち急いでるからまたね」 ぎこちなかったかも知れないけれど、なんとか笑って顔をあげルリの手を引いた。

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