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天邪鬼
雅人side
部屋に戻ってきた二人はもう仲直り出来ていてよかったと思う。
本当にそう思うけど。
「純ちゃんごめんね!本当オレ無神経だったねぇ。壁バンってしてごめんね!怖かったよねぇ。大好きだからね。純ちゃんが一番大好きだからね」
「謝んなよ!俺が悪いんだから!ルリが大変だったの知ってるのに酷いこといった!ルリの方が親と大変だったのにそれでも関係を修復したことが羨ましくて……あんなこと、一ミリも思ってないからな!」
鬱陶しいほど引っ付いて離れない二人に、小さくため息をついた。
子供のように泣いて、抱き付き合う様子になんでかな、やっぱりイライラしちゃう。
千くんは相変わらず余裕そうで部屋に置かれていた新聞を読んでるし。
俺、心狭いかも。
「ほら、二人とも。そろそろ夕飯の時間だよ」
「えー。純ちゃんから離れたくなーい」
ぎゅうっと純也を抱き締めるルリくんに純也もその腕にそっと手を当てる。
可愛い二人が並ぶと、もちろん可愛い。
可愛いけど、ムカつく。
純也、お前俺がどんなに抱き締めようとしても十中八九振り払うだろ!
「リチェール。ミジンコが妬いてるからそろそろおいで」
見かねた千くんがとんとんと自分の隣を叩く。
ミジンコって俺か。
「はぁーい」
ようやく純也を離して、てててと千くんの元に向かうと、ちょこんとその横に座る。
千くんは新聞から目も離さず、ルリくんの頭を撫でた。
「純也、俺も撫でてあげるからこっち来ない?」
「行かない」
弱ってるときは甘えてきたりもするけど、やっぱり純也は素直じゃない。
でも本当は誰よりも純真で優しい性格だって純也をちゃんと知る人ならみんなわかってる。
「もう少しでお母さんと会うけど緊張してる?」
純也の前髪をさらっと撫でると、う。と苦い顔をする。
純也の気持ちを考えるとやっぱり少し早まったかなぁ。
でもお母さん多忙な方みたいだし。
あれこれ考えてると、純也の手が控えめに俺の服の裾を握った。
「……ま、雅人。ついてきてくれるんだろ?」
不安そうに見上げる顔に思わず反応が遅れる。
「っ………」
不器用で素直じゃないけど、少しずつ頼りにはしてくれてるのか。
たまらず純也をぎゅっと抱き寄せた。
「ついてく!それで純也を俺にください世界一幸せなお嫁さんにしますって言うね!」
「は!?やめろばか!」
腕の中からは逃げようとするけど、顔は真っ赤でかわいい。
________
夕飯を食べ終わって、純也のお母さんとの約束まであと30分。
純也はそわそわしていた。
ルリくんにも抱き付いたり、俺の膝に寝転がって来たり、千くんにもたれたり……って、おい。
「純也、こっちに来なさい」
「ん」
そわそわしてるのに、どこかぼーっとした様子の純也が素直にそばにくる。
「俺がついていくんだし、ちょっと落ち着いたら?」
「………うん」
「何が怖いの?」
純也の髪を撫でれば素直に頭を俺の胸に預けてくる。
手を上げるような母親には見えなかったけど、怯えてるようにも見える。
純也は瞳を揺らしてうつむき、ポツリと言葉を溢した。
「母さんを傷付けること」
「うん?純也は俺が、うちの純也にさみしい思いさせてんじゃねぇオラァって喧嘩売るとでも思ってるの?」
緊張を和らげようと笑って冗談めかすと純也も、ふはっと小さく笑う。
けれどすぐまたため息をついた。
「雅人がじゃなくて、俺が」
まぁ、天邪鬼だし、カッとなりやすいしね。
そこは俺がフォローしてあげるところだと思うけど、何でこんなによじれたんだろ。
純也も基本素直だし、見た感じお母さんの方もそうだと思ったんだけど。
「母さんには幸せになってほしい。俺ができたせいで早くから歳ごまかして夜の店で働いて、女手ひとつで育てるのは大変だったと思う。俺はもう大丈夫って言いたいだけなのに、いつも突き放す言葉になっちゃう」
うん、知ってる。
登校拒否してた時、訪ねた純也はいつも寂しそうで、ずっとこの気持ちを誰にも言えなかったんだろう。
「お母さんの幸せってさ、純也が我慢する上に成り立つものなのかな」
さらさらと綺麗な黒髪を撫でる。
「母さんに幸せになってほしいって思ってても、純也は寂しいんだろ。寂しいの我慢してまで母親の幸せが嬉しいとかさ、複雑だよな、ひとの心って」
純也がキョトンと顔をあげて目が合う。
そんな彼を柔らかく抱き締めた。
「きっとお母さんの気持ちも複雑なんだよ。
しっかり丁寧に話し合おう。大丈夫だよ、純也」
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