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天邪鬼

リチェールside 「うーーーーん」 腕時計を見てごろんと千の膝に寝転ぶ。 もう純ちゃんと雅人さんが出ていって一時間たった。 純ちゃんは優しくて素直でいい子だけど、天邪鬼だしカッとなりやすいからなぁ。 ああ、もう気になりすぎて時計ばかり見てしまう。 オレが付いて行きたいくらい。 思ってもない言葉を口にしちゃって、自分が1番傷つくあの子が心配で胃に穴が開きそう。 雅人さんがついてるからきっと大丈夫。 そう思うのに、そわそわして落ち着かない。 「ダーリンかまってー」 考え出したら心配がつきなくて、新聞を読んでた千にちょっかいをかける。 ちらっと見下ろして、千はひょいっとオレを抱き上げ膝にのせた。 相変わらず新聞読んでるし、何も喋ってくれないし。 「雑な構い方だの~」 それでもくっつけたから、割りと満足だったりして千の胸板に頭を預けた。 千は起用に新聞を折って片手で持つと、右手でオレの髪を撫でてくれた。 「原野のこと心配?」 「うん、心配。カッとなってワッて言って、いつもしょんぼりしてるの見てるからねぇ」 「まぁ佐倉もついてるし」 「本当はオレがついてってあげたかったー」 そしたらまた、雅人さんに妬かれちゃうんだろうけど。 オレは、親との関係を一度立ちきったけれど、それでもあんなにも最悪な状況から少しだけ温かいものへと変わった。 千と出会って辛かった過去の自分が救われたような気がした。 辛い記憶はきっと、救いを求めてずっと残ってるのだろう。 今は、過去父さんにされてたことなんてほとんど思い出さなくなった。 それは今オレを包んでくれてるこの人のおかげ。 ふと、千を抱き締めて背中の傷を服の上から撫でてみる。 一度だけ見かけた千の父親は本当に冷たい目をしていて、千も見たことないくらい冷めた目でお互い作り物の笑顔を浮かべていた。 「千は、お父さんやお母さんのことどう思ってる?」 見上げると千が察したようにふって笑う。 「別になんとも。感謝もしてねぇし、恨んでもねぇよ」 その言葉は本心なのだろう。 過去を引きずる人じゃないし。 だから、余計に傷付いた幼い頃の千の心の行方を受け止めたいって思う。 千を傷つけたことにはムカつくし、でも生んでくれたことには感謝してる。 「千、あのね、オレ……」 「千くーーーん!!!」 オレの言葉を遮るようにスパン!と襖があいて、雅人さんがすごい勢いで後ろから千に抱き付いた。 「ちょ、雅人さん、千に抱きついちゃだめー」 千の背中に抱き付いてすりすりしてくる雅人さんに千の膝の上から乗り上げて怒る。 キスしたこと根に持ってるんだからな。 「佐倉、鬱陶しい」 「ひどいー。何があったの大丈夫雅人って聞いてー」 「オレが聞くから離れて雅人さん!千に抱きついちゃだめ!」 てか純ちゃんいないし。 なにか問題があったのかな? 段々心配になってくる。 けれど覗いた雅人さんの顔は満面の笑みだった。 「純也が可愛すぎる~。もう無理。無理無理無理。可愛すぎて無理。食べちゃいたい」 でれでれの雅人さんからは話が見えないけど、とりあえず大丈夫そう。 「ねえ雅人さん、純ちゃんはー?」 戻ってきたのは雅人さんだけで純ちゃんが見当たらない。 大丈夫だったのかな。 「純也は今お母さんとお喋りしてるよー。もう大丈夫なんじゃないかな」 「そうなの?」 「純也がいきなり俺と付き合ってることカミングアウトしたからびびったけど」 「ええ!?」 よかったと息をついたのも束の間、爆弾発言にまた千の肩から乗り出して雅人さんを見た。 雅人さんは先生だし男だし、人のこと言えないけど、親に言うのはせめて卒業してからじゃない? 「だ、大丈夫だったのそれ。 雅人さんの家に住むのはダメ!とかならなかったの?」 「いやー、俺もカミングアウトは純也が卒業してからだって思ってたから正直ヒヤッとしたんだけど。お母さんがいい人でよかったよ。純也に恋人ができて素直に嬉しいって」 ははっと雅人さんが照れたように笑う。 やっぱり相手の親にパートナーとして認めてもらえるって嬉しいもんね。 なんかオレまで嬉しい。 「出来たお母様だねぇ」 オレの言葉に雅人さんは笑って頷いた。 それからまた興奮気味に千の背中に手を置いてオレに顔を近づけた。 「そう。それで純也がさぁ、雅人がいなかったらこうして母さんにも向き合えなかったとか言っててさぁ」 「へー。あのツンデレな純ちゃんが?」 「ありがとう、とか言って笑って見上げてくるの。もう可愛すぎて母親の前で唇奪ってやろうかって思ったよ」 ああ、それで親子水入らずどうぞっていう体で逃げてきたんだ。納得。 雅人さんの話をクスクス笑いながら聞いてると、千がひとつため息をついた。 「まぁうまくいったみたいで何よりだな。それはそれとして、お前らいい加減どけ。俺を挟むな暑苦しい」 雅人さんを手で払ってそのままオレまでおろされた。 なんだかここに来てすぐの出来事が嘘のように雰囲気が和やかで、雅人さんと目を合わせて笑った。 悲しそうな純ちゃんの顔を思い出して、胸がギュッと切なくなる。 本当によかった。 やっぱりね、純ちゃん。 純ちゃんはいつも真っ直ぐで優しいから、拗れることがあってもちゃんと向き合ったら悪い結果になんかならないよね。 ああ、早く帰って来ないかな。 今、無性に抱きしめたい。

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