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温泉
「純ちゃん、また背中洗ったげるー」
腰にタオルを巻いて、シャワースペースを指差す。
こいつは、女みたいに胸まで隠した方がいいと思う。
見ていて恥ずかしくなるくらい、ピンクだし弄られてるんだなって雰囲気が漂う体に思わず目をそらした。
「純ちゃん、ちゃんと前隠して!」
ルリと違って堂々と進もうとしたら、ルリが慌てて腰にタオルを巻いてくる。
「純ちゃんは、自分がかわいい自覚ちゃんともってね」
ルリに言われても、なんも響かないんだけど。
露天風呂の入浴時間ギリギリということもあり、元々少なかった人達がルリを見て、顔を赤くして出ていき一気にがらんとした。
ほんと、女がいるみたいで気まずいよな。
俺はルリと風呂入るの2回目だしなれたけど。
何人か反応した下半身を隠すように出て行ったことコイツわかってるのかな。
「あの人、さっきから純ちゃんのこと超見てる。大浴場でさすがにないとは思うけど、オレのそばから離れないでねー」
ルリがチラチラ見てくる男を目で指してぼそっと耳打ちしてくる。
お前を見てるんだよ、ばーか。
時間がないからさっさと体も頭も洗って、露天風呂に向かった。
「「さっっっむぅうううう!!!」」
ガラス張りのドアを開けた瞬間、二人の声が揃う。
早足に風呂まで向かって同時に入る。
広い露天風呂なのに、この3月の寒さのお陰か貸切状態だった。
「あはは。これ一回つかったら、寒くて出れないやつだー」
少し熱いくらいに感じた湯が体に馴染み、ホッと息をつく。
横を見ると、ルリと目があってふにゃっとルリが柔らかく微笑んだ。
「純ちゃん、今日は初めて喧嘩しちゃったけど、こうして一緒に温泉入れてよかった。ありがとうね」
ほら、また、胸がぎゅってなる。
俺の方がお前からは貰ってばかりだ。
「………お前の台詞はイチイチ臭いんだよ」
それでも気恥ずかしくて、ついいつものように顔をそらしてしまった。
それは、ルリは俺のことを勘違いしないでくれるってわかるから。
「あ、お星様」
ルリの視線を追うと、山奥の温泉だからか普段は見えないほどキラキラと星が輝いていて、感動するほど綺麗だった。
「きもちいーねぇ、純ちゃん」
「ん」
たしかに、あの二人は絶対大浴場になんていれてくれないし、目を盗んだのは正解だったかも。
来て、よかった。
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