521 / 594
温泉
千side
佐倉と俺の車でゆっくりコンビニに向かった。
たかが2週間ぶりの再開なのに嬉しそうにはしゃぐ二人が初めて喧嘩をしてお互い泣いていたから、気を遣って二人きりにしてやることにした。
話したいことも色々あるだろう。
少し時間を置いて帰ってやった方がいいかもしれない。
そんなことを思いながら、リチェールが最近ハマってる抹茶プリンを原野の分と合わせて二つ手に取る。
レジでタバコも買い、外でタバコを吸ってる佐倉に並んで俺もタバコに火をつけた。
「二人っきりにしてあげたはいいけどさぁ、あの子達まさか部屋の外うろついたりしないよねー」
「それくらいはいいだろ。俺はお前ほど心は狭くない」
フッと笑って嫌味をひとつ言ってみると佐倉が、ははっと笑う。
「俺はもう絶対一人にしたくないな。てか俺が四六時中監視してたい」
「こえーよ」
「ルリくんは頭いいから流すの上手だし安心できるんだよー。純也は絡まれたら喧嘩売って相手にしちゃうから心配がつきないんだよね」
心配がつきないのなんて、俺もだ。
自分の容姿に疎いし、下手に器用なせいで自分でなんでもこなせる気でいて自信過剰だし、かといって俺のことになるとそこらのやつよりポンコツになるし。
実はびびりで泣き虫なやつだから慎重に大切に扱いたいって心掛けてるけど、あんまりにも心配をかけられると乱暴に抱いて泣かせたくもなる。
……まぁ、結局泣かれると弱いから甘やかしてしまうんだけど。
それでもリチェールが自然と俺に甘えれるようになったのはいいことだと思うし嬉しい。
とは言え、だ。
さすがに怒られるとわかった上で風呂にいかれた日には、甘やかしすぎたといらっとした。
嫌がるとわかってて鏡の前でやってみたり、何度も無自覚な行動をとるとそれなりにお仕置きしてきたけど、最終的には甘やかしてたことが裏目に出た。
感情豊かな方じゃないし、短気だと言われたことはない。
あいつが俺を怒らせる天才なだけだと思う。
備え付けの浴衣とタオルと共にもぬけの殻になった部屋を前に静かに怒りが頂点に達した。
あいつ泣かす。絶対泣かす。
見付けたときには、他の男達の注目の的になりながそれに気づくことなく、へらへらと笑って更には次の悪巧みの計画まで立ててやがった。
俺の怒りに気付き素直に謝ってきたけれど許してやれる気にはなれないし、そもそもバレても謝ればいいと思われてることも癪だ。
さらには、
「本当にごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいー!許してくれるまでオレ戻らないから!!!」
ナメたことぬかして走って逃げるわ、見付けたらキモい変態に捕まってて、助け出したら「ひぎゃあ」とか聞いたこともないような化け物にでも捕まったような声を出されるわ。
「や…やだやだやだー!怖い千やだ!放して!温泉入りたかっただけじゃん!ばかー!許してくれるまで好きじゃない!怖いー!」
………逆ギレするわ。
俺もナメられたものだと思う。
絶対簡単には許してやらないと決め、車に連行する間、諦めたように静かになった。
それが死んだフリだと気付いたときは一瞬足を止めてフリーズした。
その時点で若干笑いそうになっていたけれど、そこで笑ったら負けだとそのまま進む。
車の後部座席を鍵のリモコンであける。
その音で察したのかまた逃げようといきなり暴れだした。
あ、と思ったときには遅く逃げようとリチェールは勢い後部座席の入り口でよく頭をぶつけぱたんと俺の肩に崩れる。
一気に力が抜け、つい吹いてしまった。
ともだちにシェアしよう!