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温泉
痛い痛いと甘えてくて来るリチェールを抱き締めて宥めるのは正直好きだ。
あの甘え下手なリチェールが自然に甘えてくるのも可愛いし、抱き締めて柔らかい髪を撫でると俺の方が癒される。
でもここで有耶無耶にするわけにはいかない。
「でもオレ頭くわんくわんするし、打ち所が悪かったに違いないよ。間違いない致命傷だよー今この体を痛め付けるのは絶対よくない。オレはそう思う」
早口に一生懸命訴えてくるリチェールの頭をポンポンと撫でる。
「痛いことはしねぇよ」
優しく微笑んでみれば、ふにゃと気の抜けた顔をする。
俺もリチェールには甘いから人のこと言えないけど、リチェールはちょろすぎる。
「千がオレに痛いことなんてするはずないってわかってるけど……」
すりっと自分から俺の手に頬をすり寄せてきて、そのままぽすっと胸に飛び込んでくる。
「オレ、純ちゃんとおっきい温泉に入りたかったんだもん」
「俺にそう言えばよかっただろ。日改めて貸切り温泉に連れてってやるよ」
「 お金かけないで。千が心配するようなことないから。何度も何度も言うけど、オレ、男だからね」
それで何回危ない目に合えば気がすむんだよ。
そう言ってしまいそうになって、言葉を飲み込む。
たくさん傷付いてきたことを知ってるから傷付ける言葉で黙らせたい訳じゃない。
「俺がお前の肌見られるの嫌だって言ってるんだよ。お前が危険な目に遭う遭わないの話じゃない」
身勝手で、ひどい言い分だと自分でも思う。
リチェールも悲しそうに目を伏せた。
リチェールが自分のことに疎い分、俺は過保護なくらいでいい。
見られるのももちろん嫌だけど、リチェールがひどく犯された後の姿をもう二度と見たくないし、あんな思い絶対にさせない。
リチェールの自由を多少奪うことになっても、それは絶対だ。
「可愛く甘えてくるうちは、いくら困らせてきてもいいけどな、こういうわがままは許さない」
「……千のバカ」
「反省しないなら、二度とこんな真似できないよう体にいって聞かせるしかないんだけど」
まぁ、もとからそのつもりだ。
リチェールはうつむいて黙り混む。
髪から水滴が滴り落ちて、それをそっと耳にかけながら顔をあげた。
「千がオレを傷つけない言葉を選んで、自分が悪者みたいな強い言い方で言ってくれてるのわかってるのに、いつも甘えてごめんね」
賢く、底抜けに優しいやつだから頭で考えてちゃんと俺の心意を読み取ったんだろう。
俺は説教してるつもりだしリチェールもしゅんとしたままだけど、リチェールのくっついてくる体が心の荒ぶりをおさめていく。
それを言うなら、俺だってリチェールの気持ちはわかってる。
こいつは俺に言って俺がついていくと言うことを遠慮して言えなかったんだって。
消えない背中の傷を気遣ってくれたことはわかってた。
俺は別にもうなんとも思ってないものなんだけどな。
俺が怒れば怯えて逃げて、笑えば油断して自分から近付いてきて、それでも胸のうちはいつもちゃんと伝わってる。
リチェールといて心配は尽きないけど、安心感はある。
「千、仲直りのちゅ、しよ?」
可愛らしく小首をかしげて服をつかんでくるリチェールに唇を重ねる。
短い舌を絡めとり、すぐに離して物足りなさそうに惚けた顔を向けてくるリチェールの頬を撫でて微笑んだ。
「なに可愛さで誤魔化そうとしてんだバカ。お仕置きはするっつてんだろ」
リチェールの顔がピシッと凍りつき、その硬直した体をシートに押し倒した。
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