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予感
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「え。うそでしょ?俺なら絶対そんなところで働かせないよ」
次の日、佐倉とタバコ休憩が重なって昨晩の話をするとあり得ないと言ったように吐き捨てられた。
「リチェールが楽しみにしててやる気満々なんだよ。
実際にリチェールを気に入ったっていう息子の方とは父親も関わりないみたいだし。
俺の杞憂でリチェールを縛り付ける真似はしたくない」
元々年のわりにずっと大人っぽいやつではあった。
ちゃんと甘えるようになって俺の前でだけ見せる幼さは可愛いけれど、それでもリチェールはどんどん大人になっていくんだろう。
恋人だけど、こいつの保護者だという気持ちも強くある。
やりたいと思うことはたくさんやってほしい。
「千くんがどんどん甘くなっていくー。まぁその分ルリくんも言うこと聞くようになったみたいだしいい塩梅なのかなぁ」
ふーっと佐倉が吐いた煙が宙を舞う。
甘くなっていってる自覚はちゃんとある。
それこそ、下手したら付き合いたての頃や付き合う少し前の頃がリチェールを束縛していた気がする。
「俺も最近純也がルリくんとバイトしたいって言い出してさぁ。ダメって一蹴して怒り出したから泣かせたけど。厳しいかな?」
「………バイト経験がある新卒とない新卒じゃ仕事で差があくぞ。本人がしたいっていってるならやらせてやれよ」
「えー。俺が純也を働かせるわけないじゃーん」
あはは。と笑う佐倉に呆れる。
まぁ俺も本音は働いてなんてほしくないけど、仕事を趣味だと言うほど楽しんでやってるのにそれを俺の小さな心で取り上げたくはない。
「まぁ一ヶ月だけで、千くんのお父さんと関係のある前オーナーはルリくんのこと知らないんでしょ?バイトだとしてもあんないいホテルで働けるなんてそうそうないわけだしいいんじゃない?俺ならほとぼりが冷めるまで家から出さないけど」
原野の容姿で危険が少ないのは元々原野が引きこもりだったことや、佐倉が今もこうして囲ってるおかげなのかもしれない。
3限の終わりを知らせるチャイムが鳴り、周りがざわざわしだす。
そろそろ戻るか、なんて話をしていたら、裏側から話し声が聞こえた。
「呼び出したの、君?一年だよね?」
聞こえてきた声はリチェールのもので思わず近付いて様子をうかがった。
相手はネクタイの色からして一年でリチェールは手紙を手に持ってる。
一応スマホを確認したけどだれかから呼び出されたという連絡はなく、いらっとしてしまう。
「告白かな?顔が怖いよ千くん」
佐倉が面白そうに俺をつついてくることすら構ってやる余裕はない。
相手の一年はリチェールより少し身長は高めだけど小柄で顔を真っ赤にしていた。
「あの、俺のこと覚えてますか」
「ん?んー、ごめんね。えーっと……」
リチェールは覚えてはいないらしく困ったように笑う。
「以前、ルリ先輩に委員会で一緒になったとき、隣の席で紙で切ったことに気付かないでいた俺に絆創膏貼ってくれて……」
「あー!あの時の!覚えてるよー。久しぶりだねぇ」
忘れてたくせに覚えてるとか嘘つくんじゃねぇよ。
相手を喜ばせるだけだろ。
案の定相手は嬉しそうに顔を赤くした。
「あとルリ先輩が朝、校門で蹲ってる時、声かけたの俺なんです」
「あ、月城先生が来てくれたときのやつ?ごめんね。ちゃんと顔見えてなかったー。あの時はありがとう」
多分、田所が電車でリチェールにふざけたものを着けて歩かせた時のことだろう。
あの時のリチェールは盛られてたこともあって、危険な顔をしていた。
「ルリ先輩の絆創膏貼ってくれた時の優しい笑顔がずっと離れなくて。男同士で変だってわかるんですけど、校門での赤い顔を見てから、そう言う意味で気になり出して……その……」
一度言葉を飲み込んで、決意したように赤い顔をあげた。
「好きです!絶対大切にするので付き合ってください!」
一回りも年下の自分の生徒にこれだけムカつくんだから、俺も佐倉の心が狭いとかミジンコとか、言えないかもしれない。
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