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元通り
西川side
目の前でグスグス泣く小さな男にどうしたものかと、頭を抱える。
前オーナーの、現会長は俺の恩人だ。
調理師免許だけ持って、定職に就かずフラフラしていたところをキッチンの見習いとして拾ってもらった。
その恩人の一番贔屓にしてる友人の息子さんが面倒な男の子に引っ掛かって、自分の幸せを無にしてると聞いた。
いいところの令嬢との見合いを蹴って、その難のある男の子の親になろうとしてるらしい。
そう聞かされていたのに、まさか付き合ってるとは。
しかも、聞けば短気で気にくわないことがあればすぐ殴ってくるような野蛮者と言っていたらしいのに、こんなにも一途で弱々しい。
道端で泣き出したときは驚いたし、路地裏でグスグスしてる姿は俺が何かしなくても勝手に厄介事に巻き込まれて傷付いてくれそうだと思った反面、聞いていた話との矛盾に戸惑った。
それにあの電話。
ひどすぎるだろイギリスの保護者。
そりゃこの子を引き取ってあげたいって思う気持ちもわからなくもない。
たまたま会長の息子、現オーナーが知り合いのバーから拾ってきた子がその子だったもんで、二人の仲をさいて恩を返せるかもしれないと仕事が終わってからも尾行していたけれど、すでに二人の仲は終わっていたらしい。
容姿のせいか、それともこの健気な性格のせいか毒を抜かれてしまう。
そう言えば、遠い昔の初恋、俺だってこうだったかもしれない。
「リチェール。やっぱ君、その彼のところに帰りな」
「え……」
俺の言葉にリチェールが涙で濡らした顔をあげる。
その色っぽい顔に思わず、リチェールの髪をわしゃわしゃ撫でて見えなくした。
「偉そうなこといっといてなんだけどさ、そういえば俺も忘れられない恋あったわ。後悔が残らないようとことんぶつかった方がいいよ。骨だって中途半端に折れるより、綺麗に折った方が後々綺麗に治るでしょ?」
「あ………そうですね。ありがとうございます」
あ、これはもしや泣いたから俺がリチェールのこと迷惑だと思って家から出すことにしたって勘違いしてるパターンかな。
慌てて立ち上がる姿にやっぱそうだと思うけど、まぁそれならそれでいい。
とにかく、リチェールには早く家から出てもらった。
「本当にご迷惑お掛けしました。明日からまたお仕事よろしくおねがいします」
玄関で律儀に頭を下げる姿とか、やっぱり聞いてるような悪いやつには見えない。
「ちゃんと彼のところに帰りなよ。それでダメだったら夜何時になってもいいから、また家においで。送ってあげられなくてごめんね」
「いえ……ありがとうございました。今度きちんとお礼させてください」
ていうか、俺の初恋の相手に似てる。
辛いときに笑うところとか、律儀なところとか。
「じゃあ、もし彼のこと綺麗に忘れられたら俺と付き合って。お礼はそれでいいよ」
冗談めかして言うとリチェールは冗談と受け取り愛想笑いをする。
本気半分なんだけどな。
最後にもう一度会釈をしてリチェールは出ていった。
「ふぅ……」
小さく息をついて、マナーで鳴りっぱなしのスマホをポケットから取り出した。
「もしもし」
「やーーっと繋がった!こっちは俺いれて4人集めたぞ!お前ん家でいいんだよな?」
「悪い。それが逃げられたんだわ」
「はぁ!?」
電話の向こうで相手が、せっかく準備したのに、とか楽しみにしてたのにとか騒いでる。
ごめん、また今度なと適当に話をして電話を切った。
恥ずかしい写真を何枚かとって、ばらまかれたくなかったら、月城から離れてイギリスに帰れと脅すつもりだった。
そのために、そっちの気がありそうな知り合いにも電話したけれど、あんなに好きな人を浮かべて泣く子に酷いことなんて出来るはずがなかった。
もし、もう一度当たって、フラれたっていうなら本気で俺あの子のこと狙うかも。
なんてな、と自分の考えに、ないないと頭をふってベットに横たわった。
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