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元通り
リチェールside
ゴロゴロとキャリーバックを引きながら、さっきの醜態を思い出してため息をついた。
明日何を買っていこう。スマホで調べると詫びの品で一番一般的なのは羊羮らしいけど。
あれ、日本人でも好き嫌い分かれるって純ちゃんが言ってた気がする。
今さら、もう限界だとまで言われて、千の所に帰れるはずない。
「はっ」
皮肉な笑いが出る。
千の所どころか、オレ帰る場所どこにもないし。
とにかく、明日は家探しだ。
今日はさっさとネカフェに行ってシャワーを浴びて横になりたい。
年齢確認されない素泊まりのホテルでもいい。
やらなければならないことを冷静に頭で思い浮かべれば、少し気持ちは落ち着いた。
「ねー、道聞きたいんだけど今時間ある?」
考え込んでいるとかなり酔った様子のヘラヘラした二人の男の人に声をかけられた。
………普通、キャリーバック持った外国人に道聞かないよね。
いい加減こういうのにも少し慣れた。
それに今の時代、スマホで道なんて調べられるんだから。
「すみません。オレもこの辺詳しくないんで」
さっと会釈してそのまま進む。
けれど相手は前方を塞ぐように前に立ってきた。
「いーじゃん。道探し手伝ってよ!」
仕方ないから、無視してUターンすると後ろから手を捕まれ、ぐいっと乱暴に引き寄せられる。
「可愛いねー。奢ってあげるからさー」
ぞわっと鳥肌が立って、咄嗟に思いっきり手を振り払い後ろに勢いよく引いた。
「放して……っ!」
「あ……おい!!!」
突然、アルコールが一瞬で抜けたように男の顔が青くなる。
え、と気付いたときには、クラクションの音が鳴り響いて目が開けられないくらいの眩しさに包まれた。
ドンッ!!
体に直接響くような音と共に一瞬体が宙を浮き、コンクリートに叩き付けられた。
一瞬の出来事で何が起きたかよくわからないけど、あ、これ死んだかな?ってぼんやり思った。
掠れた意識の中、思い浮かんだ千の顔を忘れたくて自ら意識を手放した。
____もし、また目を覚ましたなら、今度は恋人なんて高望みしないから……1からやり直したい。
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