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元通り

千side 「千くん落ち着いて聞いてね?」 時間は0時前だった。 電話を掛けてきた佐倉が珍しくこちらの話も聞かずに早口に喋る。 嫌な予感がした。 「今、警察から学校経由で連絡があって担任の俺に回ってきたんだけど、ルリくん車にひかれて病院に搬送されたんだって」 頭が真っ白になって、運転も荒くなった気がする。 よく覚えてない。 急いで駆けつけた病院にはすでに佐倉と原野がいて、リチェールはまだ手術室の中だった。 原野はわんわん泣いて、佐倉に支えられている。 「見ていた人の話によると、男に絡まれて手を振り払った拍子に車道に出ちゃったらしいよ」 それで、車にひかれたって? 突然の出来事に、頭が追い付かない。 リチェールは無事なのか。 こんな時間まで、宿も見つからずふらふらと歩いていたことにも、変なやつにまた絡まれていたことにも、胸がいたんで言葉がでない。 「あの、本当にすみませんでした!!」 目の前で血まみれの男が勢いよく頭を下げる。 「ですから近藤さんはわるくないじゃないですか。悪いのは絡んでた男達です」 どうやらこの近藤と言う男が運転手らしい。 「こちらの近藤さんが警察や救急車を呼んでくれたんだよ。男達は逃げちゃったって」 二人いた警察官と目が合い会釈をして近藤の前に立った。 「私はリチェールの保護者です。この度は迅速な対応感謝します」 「いえ、そんな……前方不注意で申し訳ないことを………」 近藤は悪くない。 むしろ救急車を呼んでくれた恩人だ。 そう頭では思うのに、理不尽な感情が込み上げる。 「その血は……」 「ああ、僕のではないので大丈夫です……その、すみません……」   近藤が気まずそうに目をそらす。 リチェールの安否を確認した時ついたのだろう。べっとりこびりついた真っ赤な血を信じられない気持ちで見ていた。 嫌な汗が伝う。 正直、生きた心地がしなかった。

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