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元通り
警察官と近藤は後日やり取りをすることになり、残ったのは3人だけになった。
「ルリ……何で、こんな時間に一人で外にいるんだよ……!」
静かだった原野が責めるように俺の胸を拳で叩く。
悪い、と呟いた声は掠れてしまった。
「こら純也。心配なのはわかるけど、責めるのは違うだろ。大丈夫だから落ち着けって」
「だって……!」
二人の言葉すらまともに頭に入らず、ベンチにふらっと座り込んだ。
全部俺が悪かった。
思い通りにならないからって別れるなんて、卑怯な言葉でリチェールを縛ろうとした。
最後のリチェールの顔が頭から離れない。
"捨てないで"
なぜあの時、四の五の考えず追いかけて抱き締めなかったのだろう。
今まで傷付いてきた分、俺が幸せにしていきたいと思った。
一生をかけて守りたいと、たしかにそう思ったはずなのに。
なんだ、今のこの有り様は。
なぁ、頼むよリチェール。
俺にはお前しかいない。
どうか無事ていてほしい。
望むのはそれだけだった。
二度とお前を傷つけないって誓うから、俺の腕の中に戻ってきてくれ。
「千くん、看護師さんから渡されたルリくんの身に付けてたもの。服は手術の前に一気に切られてたから捨てるしかないと思うけどスマホとかお財布とか確認できる?」
「ああ……」
ビニールに入れられたべっとり血のついた服を受け取った。
ポケットからスマホと、財布、それからどこか見覚えのある水色のお守りが出てくる。
「………っ」
付き合う前、初めて2人で出かけた先で興味を持ってたから、気まぐれで買ってやった物だった。
あいつ、こんなのまだ持ってたんだ。
お守りなんて、そんなのもの信じてない。
ただ色々大変なことが重なって疲れていただろうから、何か理由をつけて遠出させてやろうと思っただけなのに、あんなに喜んで。
どうしようもなくリチェールが恋しい。
お守りを一度握りしめてポケットにいれた。
「あと、ルリくんのスマホ、マナーモードで鳴りっぱなしなんだよね。この西川って人わかる?」
西川?
リチェールの仲良しの先輩は二人しかリチェールから聞く話には出てこなかったし、初めて聞く名前だった。
スマホを受けとると、たしかに不在着信が5件入っていて、話してるうちにまた鳴り出した。
「ここ、廊下だから通話オーケーだよ。とってみたら?もしかしたら事故のことなにか知ってる人かも」
佐倉の言葉に廊下に張られた携帯電話の使用可能のポスターを確認して電話を繋げた。
「あ、やっと繋がった。
リチェール、元カレとは仲直りできたの?まだフラフラしてるなら、俺ん家戻っておいで」
こちらが話始める暇もなく繋がってすぐしゃべり出した相手の内容に胸がざわつく。
「どちら様ですか?」
思わず低い声が出てしまう。
相手は少し黙りこんだ。
「あー、もしかして彼氏さん?
ってことは、リチェールは外じゃないんですね?
あんたねぇ、一度引き取った身寄りのない子を身一つで追い出すってどういう神経してんの?次、目離したらすぐかっさらうから」
追い出したんじゃない。
勝手に出てったんだよ。
そう言いたいけど、追い出したようなものだろう。
「リチェールは事故にあって手術中だ。あんた何時までリチェールといた?」
「はっ!?事故!?」
相手は何も知らない様子で、経緯を話していると、病院に来ると言い出した。
来なくていいと言っても、相手は来るの一点張りで、今はこんなやり取りすら煩わしいほど、リチェールが気になって、病院名をささっと言って電話を切った。
「千くん」
佐倉の声に顔をあげると、手術中の看板の灯りが消えていた。
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