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タイムラグ

リチェールside   皆が帰って一人病院のベットに寝転がった。 しんどい………。 約一年のタイムラグがあることに焦りを覚えていた。 車に轢かれて記憶なくすとかドラマかよ。 父さんと母さんにこのこと言うべきか? でも、記憶がないことをいいことにあることないことつけられたらたまったもんじゃない。 あの寒いイギリスから逃げ出してゆーいちのそばに来れたんだから十分だ。 てか、彼氏が居たとか。 ありえないだろ。 その元カレさんにこの一年オレはどこまで話していたんだろう。 親のことは知っているのか。 いや、知られてフラれたってのが一番有り得るな。 どうでもいいけど。 別れる前に記憶がない状態だったら最悪だったけど、別れたあとならまだ幾分か救いはある。 無かったことにしても問題ないよな。 とりあえず明日は朝から家探しだな。 通帳には結構な金額が貯められていて、引っ越しの初期費用も学費もバイトを続けていたら十分やりくりできるだろう。 とは言え、家を探すのはどうしようかな。 保証人の件でやっぱり親への連絡は避けれないかもしれない。 ていうか、事故る前のオレ阿呆だろ。 なに海外で家を手放してんだよ。 その先の世話になった家で追い出されて頭が悪いにも程がある。 本当にオレか? 聞けば、わんわん泣いていた子の付き添いの男性は学校の担任らしいし明日くらい休んだところでなにも言わないよね。 仕事も初日だったようでよかった。 新人の一日二日なんて変わらないだろうし。 あの西川さんって人頼りになるな。仕事の面ではとりあえず安心かな。 コンコン 部屋がノックされて、「はい」と答えると、もうみんなと帰ったはずの元カレさんが立っていた。 「皆さんと帰らなかったんですか?」 何となく気まずい。 見れば見るほど迫力を感じるほどの美形で、気後れしそうな雰囲気だった。 「いや、帰る。その前に、少し触っていいか?」 「え?」 コツコツと近づいてきて、ベットに腰をおろした。 触るって? オレ、この人にフラれたんだよな? 「えっと……?」 どうしていいのかわからず苦笑いを浮かべていると、ゆっくり大きな手が伸びてきてびくっと体が反射的に揺れてしまう。 「悪い。お前触られるの苦手だもんな。怖いかもしれないけど、少し我慢してくれ」 悲しそうにも見える笑顔になにも言えずにいると、オレの頬を撫でそのままゆっくり抱き寄せられた。 「無事でよかった……」 ぎゅっと抱き締めてくる腕は大きくて、暖かい。 怖い気もするのに、懐かしい気もしてなにも言えなかった。 まるで、オレの存在を確かめるように抱き締めて後ろに回した手で髪を撫でてくる。 「また明日迎えに来る。ゆっくり休めよ。怖い夢見たら電話しろ」 そういって、テーブルサイドにあった紙に携帯番号を書いて元カレさんは出ていった。 なんだったんだ…。 オレ、あの人にフラれたんだよな? どうしてあんなに悲しそうな顔をしていたんだろう。 胸に何かが引っかかったような痛みが残って、振り払うように髪をかいた。

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