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タイムラグ

着いたマンションの一室は2LDKと広く、その中の普段使ってない部屋に案内をされた。 「この部屋には俺は絶対入らないから、好きに使うといい。最初は怖いかもしれないけど、リチェールにとって安心できる場所になるよう俺も心がけるから、なにか嫌なことあったらすぐ言えよ」 昨日から、なんでこの人はオレが何かに怯えてるような表現をするんだろう。 何かに対して怖いと思ったことなんてほぼないのに。 「ここ、オレが使ってたんですか?」 話をそらそうとキョロキョロと室内を見渡しながら言うと、ぽんっと頭に手を置かれた。 「いや?前は寝室もベットもなんなら風呂も一緒だったけど。そっちがいいならそうするか?」 イタズラっぽい笑顔を向けられ、顔が一瞬でカッと熱くなった。 「いやです!てかやっぱオレ出ていきます!」 「それはダメ」 「なんで?別れたんでしょ?」 「リチェールは俺のだから」 なにそれ! こんな暴君見たことない。 出ていこうとしても、保護者のサインがないとどうせ未成年のオレは家なんて借りれないと説明され仕方なく荷物をおろした。 でも、さっき喧嘩負けただろ、とかそう言うプライド傷付けるようなこと言わないんだ。 腑に落ちないけど、日本に……ゆーいちのそばに来れたなら、なんでもいい。 宣言通り、あの人は好きに使っていいと言ってくれたこの部屋からすぐに出ていってくれた。 一人になるとホッとため息をついてしまう。 家に住んでいいと言ってもらえたんだから、オレとしてはラッキーなのかも知れないけど、あの人のそば落ち着かない。 …………あ。 そういえば、名前なんて言うんだろう。 部屋からでると、キッチンでコーヒーをいれる背中にそっと声をかけた。 「あの……」 「ん?」 振り返った顔は、どきっとするほど優しくて、思わず顔をそらしてしまった。 「今さらなんですけど、あなたの名前何て呼んだらいいですか?」 オレの言葉に、元カレさんは優しく笑う。 何だかその笑顔は悲しそうにも見えた。 「月城千。リチェールの好きに呼ぶといい」 「つきしろ、せん、さん……」 口にして見るとなぜだかジンと胸が熱くなる。 「お世話になります。月城さん」 「ん」 癖のように、ぽんっとまた頭に手を置かれて、ゆっくり撫でられる。 少しだけ、胸がズキズキと痛んだ気がした。

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