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タイムラグ

千side リチェールが怯えてるときほど強気に煽ってくる性格なのはわかっていた。 リチェールの父親と電話で話してるとき、いつもの柔らかい雰囲気を一切なくして喋ってた、あの時のようだ。 つまり、こいつの中での俺の認識はそういう扱いなんだろう。 しかも、なぜだかこいつはこの一年、自分が日本にいるために体を散々売っていたと認識している。 そんな情報を与えたやつが誰だか、ある程度予想はつくけど。 要するに、自分を捨てるかもしれない相手に下手に大切にされて、捨てられたとき傷付くのがこわいんだろ。 大切にされるより、杜撰な扱いを受けた方が気が楽だと臆病者の考えなんて手に取るようにわかる。 「怖さを誤魔化すためにそうやって煽るくせ、直せよ」 唇を離してそう言うと、リチェールは睨みながら強気に笑う。 「怖い?こんなの、別にあなたとだけしてきたことじゃない。慣れてることに今更なんの感情もわかないよ」 キスが息苦しかったのか、少し息が上がっていて顔も赤い。 そんな顔で凄まれても、迫力なんてなにもないけど、台詞にはさすがに苛立つ。 自覚してほしい。 自分はそこまで強くないことも、こういう行為が苦手なことも。 怯えて、警戒心をもっと周りにもってもらわないといい加減本気で縛り付けたくなる。 「お前が望んだ扱いがどんなものなのか、しっかり噛み締めろよ」 そう言ってもう一度キスをすると、リチェールの服に手を滑らせた。 まだ腹を撫でただけなのに、ぴくっと震える体に、どれだけの恐怖心を植え付けられて来たのか伝わってくる。 リチェールは一度気持ちを鎮めるように小さく息をつき、手をソファにおろした。 父親や他のやつとしてるときもこうして投げやりだったのだと嫌でも想像してしまう。 今、自分が情けない顔をしてる気がして、リチェールの体をうつ伏せにソファに押し付けて見えないようにした。 ローションを手に垂らして、蕾に指を2本差し込んだ。 「…………っ」 体をぴくっと跳ねさせるものの、リチェールはなにも言わずクッションに顔を埋める。 散々知り尽くしたリチェールの敏感なところを強く掻き回した。 「ひ、やぁあ!?」 びくびくっと背中を反らせて、何が起きたのかわからないと言うように振り返る。 そういえば、父親とのセックスは痛みばかりでろくに感じたことなかったと言っていた。 だからか、痛みには強いくせに快感にはとても弱かった。 「な、なにしたの……っ」 「さぁな」 目を白黒させるリチェールに薄く笑って、指をぐちょぐちょと音をたてて動かした。 「____っん…んぅ」 唇を血が滲むほど噛んで耐えるリチェールを目の前に、胸がずきずきと痛む。 「も……さっさと、突っ込めばいいだろ!」 それでも強気に睨んでくるリチェールに指を増やして掻き乱し、乱暴に前立腺をぐりぐり押した。 「ん───っ!」 びくびくと痙攣しながら涙を流すリチェールに自身を押し当てた。 ひっ、とひどく怯えた声でリチェールがこちらを見て、顔を振る。 「……怖いなら、やめるか?」 「……怖い?は、だれがだよ」 怖い癖に真っ青な顔で挑発的に笑うリチェールのヒクつく蕾に一気に押し込んだ。 「っん、あッ!んぁあ____ッ!!」 背中を反らせて、涙を散らすリチェールの腰をつかんで乱暴に打ち付けるたび、心がどんどん荒んでいくようだった。 お前をこんな風に抱きたい訳じゃない。 「………っくそ!」 小さな体を何度も乱暴に揺さぶる。 好きな奴と体を重ねてるはずなのにどんどん心が荒れていくような気分だった。 悲鳴を押し殺して、華奢な肩を震わせながらも、怖いとか、やめてを言わないリチェールは枕に押し付けた顔をあげることはなかった。 泣いてるリチェールに無理矢理突っ込んでイけるはずもなく、リチェールが2回目の精を吐き出したタイミングで、ずるっと抜いた。 体を重ねる時、怯えながらも俺にすがってくる健気なリチェールが好きだった。 頬を撫でるとすり寄って微笑む顔に、大切にしようと思ったし、今までひどい虐待を受けてきた分、暖かく包んで守っていきたいと思っていた。 それなのに、目の前にいるリチェールは脱け殻のように涙を流してソファに倒れている。 太ももには自分で爪を立てたと思える跡ができていて、唇も声を押さえようとした血が滲んでいる。 抱き締めようとそっと手を伸ばすと、びくっと体が微かに震えたから、その手をぐっと握って引っ込めた。 「……これに懲りたら、二度と身を投げ出すような真似するな。次他の男に体差し出す真似したら今度はやめてやらねぇからな」 来ていた黒のカーディガンを震えるリチェールの体に被せて離れた。 これでわかっただろう。 自分が思ってるほど自分が強くないことも、こんなことを自分から受け入れられないことも。 俺のことを恨んでもいいから、自分のことを大切にしてほしかった。 「……め、んなさ……」 ぽそっとリチェールの小さく呟いた声に振り返る。 リチェールは俺のカーディガンで口許を押さえながら泣いていた。 「リチェール?」 「こ……んな真似、させて……ごめんなさい………」 リチェールの弱々しい台詞に、息が詰まるほど胸に痛みが走った。 なんで、お前は、いつもいつも……! 「いんだよ、お前は!お前を無理矢理抱いた奴の心配なんて!傷つけられたのはお前なんだぞ!」 思わずリチェールの体を起こしてそう声を荒げると、リチェールはまたボロボロと涙をこぼしながら、控えめに俺の服の裾をぎゅっと握った。 「……だって、月城さん……辛そうな顔してる……っ」 記憶をなくして初めてリチェールが自分から俺に手を伸ばすのがこんなタイミングなんて、笑える。 たまらず、リチェールの体を抱き締めてその小さな肩に顔を埋めた。

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