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タイムラグ

リチェールside 怒りを煽ったのはオレだった。 月城さんがオレのことを心配したり、大切にしようとしてくれるから、煩わしいとさえ思ってしまった。 この人の声とか匂いとか、手の暖かさに何故だか安心感を覚えていて、強引にキスされたって、西川さんにされたときに感じたような嫌悪感が沸かなかったことにひどく焦りを覚えた。 特別な誰かなんて、作りたくない。 どうせいつか捨てられるなら、優しくされなくていい。いっそ嫌わせてくれたらいいのに。 殴って押さえつけて抱かれるくらいが丁度よかった。 だって、この一年バカみたいに男の人に体を売って未練たらしく居座った俺にはそれくらいが丁度いいと思ったから。 それなのに、この人は煽って怒らせたって、乱暴になんてしなかった。 痛みのない強引な行為は今まで感じたことない体の快感に、違う恐怖が体を支配した。 彼の触れる所すべてに嫌なほど敏感に反応して、自分の体じゃないみたいで怖かった。 挿れられた時、父さんのものとは比べものにならないほど大きくて苦しかったけど、散々解されたおかげで痛みはなかった。 強引な行為をした彼は苦しそうな顔をしていて、本当はこんなことしたくないと言わなくても伝わった。 「悪かった。もうリチェールが怖がることはしない」 泣いたオレを抱き締めた手は震えていた。 「……めん、なさい……っごめんなさい……!」 あれだけ父さんに乱暴に抱かれてきて、日本に来ても似たようなことを繰り返していた自分に失望した。 投げやりになっていたオレを嫌われ役になって止めてくれたこの人の悲しいほどの優しさに胸が痛んだ。 身寄りのないオレを引き取って、面倒事を背負ってくれてたこの人に、興味がないと別れた内容もちゃんと聞きもしないで、毛嫌いしてた。 自分が傷付きたくなくてしていた行為は、この人の気持ちを踏みにじって傷付けていて、それでもそんな弱いオレを受け止めてくれていたのだと今更になって気づく。 「……愛してる。だから、自分の身を軽く扱うような真似しないでくれ。俺の心臓が持たない」 低くて、優しい声に心にジンと響く。 ……でも、わからない。 この人といると、切なくて苦しい。 でも、安心もする。 この矛盾したむずむずする気持ちの正体が何なのか。 認めることが怖くて、今は優しい彼の胸に顔を埋めて涙が止まるまで泣き続けた。

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