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こころ

「リチェール」 食後、二人でソファに並んで座って寛いでる時間は一番落ち着く。 俺が腰に手を回して放さないから必然的にリチェールはソファに膝をたてて俺にもたれる形になる。 「なんですかー?」 せっかくの癒しの時間にあいつの話を出したくもないけど、一番ゆっくり話ができるのは今だろう。 「日曜日、お前出勤だよな?」 「ああ、はい。10時から3時まで」 ガッツリお見合いの時間と被ってる上、リチェールはレストランのウェイターだ。 見られるのは間違いないだろう。 「父親にちょっとした弱味を握られた。行きたくないけど、その日お見合いに顔だけ出さなきゃいけない」 「え……お見合い?弱味って大丈夫なんですか?」 「大丈夫だよ。まぁ断ってもいいんだけど、今回だけは言う通り顔だけ出しておいた方が無難だからな」 リチェールは何を考えているのはわからないような顔でまっすぐ俺を見てくる。 以前なら、不安になって、千がその人好きになったらどうしようってぴーぴー泣いていたんだろう。 少しだけ、胸が痛んだ。 「その会場がお前のホテルだから、見かけるかもしれない」 「ああ、はい。見かけても声かけるなってことですねー?」 何でもないようにへらっと笑うリチェールに、「そうじゃなくて」と抱き寄せた。 「俺はお前のことが好きだって言ってるだろ。行きたくて行くわけじゃないから、変な勘違いするなよ」 リチェールにはなにも響かないだろうけど、気持ちだけは疑ってほしくなかった。 この無自覚人間不信が少しでも俺を信じることができるようになってほしい。 腕のなかでリチェールがどうしていいのか分からないよう固まる。 それから、顔をあげて、ほんのり赤い頬で笑った。 「月城さんは、お父さんに会うんだから、自分が傷付かないことだけ考えてください。オレにできることは何でもしますから、無理しないでね」 ………ああ、この子は記憶がなくなったって、間違いなくリチェールだ。 俺が好きになった男の子の面影に思わず抱き締める力を強くしてしまった。 う。と腕の中で苦しそうな声が聞こえ、ハッとして力を押さえた。 「なら、もう少しこのままでいてくれ」 そう耳元で言うと、ぴくっと小さく反応して、躊躇いながらも細い手は背中に回してくれた。 今さら父親を怖いなんて全く思わない。 俺が今唯一怖いことはリチェールが傷付くことだけだった。

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