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こころ

月城さんが自分の顔を隠すようにオレを抱き締めて顔を埋める。 その手は少し震えてる気がした。 「……愛してる」 囁かれた愛の言葉に、胸がまたぎゅっと締め付けられる。 認めてしまえば抗いようがない。 この気持ちは恋だったんだ。 「オレもです……オレも愛してます」 その広い背中に手を回して撫でると、ずっと胸につっかえていた苦しいものがストンと抜けるように気持ちが楽になった。 初めから、認めてしまえばよかったんだ。 早くこの人のことを思い出したい。 深く傷付くかもしれないけど、それでもいい。 きっと記憶のない一年は、この人と辛いことがあろうとも暖かく過ごしていたんだろう。 不思議とそんな自信があった。 「……っ」 次の瞬間、急にズキッと頭が殴られたように痛んだ。 「リチェール?」 「い、た……っ」 ガンガンと殴られ続けられるような痛みはどんどん酷さを増して立っていられなくなる。 「どうした?頭が痛いのか?」 焦ったような月城さんの声さえどんどん遠くなっていく。 今自分が立っているのかすらわからない。 なんだこれ。 痛い、痛い、痛い……! 朦朧とする意識のなか、うっすら開いた視界の中で彼が情けない顔してオレの名前を何度も呼ぶ。 そんな顔しないで。 あなたのそんな悲しそうな顔見たくない。 笑えたかはわからないけど、必死に手を伸ばした。 「……大、丈夫だから……ね、千……」 声になったかわからない言葉を最後に意識を手放した。

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