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そしてキミは
千side
お会計と退院の手続きを済ませて、病室に向かうとリチェールが着替えを済ませて荷物を纏めているところだった。
俺に気付くとへにゃと柔らかい笑顔を向けてくる。
「ねー、千。オレの荷物これだけ?」
「ああ。起きたらすぐ退院って言われてたしほとんど何も持ち込んでない」
「オレのスヌードとお守りは?」
不安そうにきょろきょろしながら聞いてくるリチェールに気まずい気持ちになる。
緊急手術の時、すべての衣類は素早く脱がせるため切られる。
大切にしてくれてるのはわかっていたけど、スヌードは事故当時つけていたせいで血まみれだったし、切られていたし、何より見るたびにリチェールが轢かれたを思い出してしまいそうで、悪いと思いながらも当時の血まみれの衣類と共に捨ててしまった。
お守りだって、持ってはいるけど、血が滲んでいて正直こんなの持っていてほしくない。
「新しいの買ってやるから」
「え?なに?捨てたのー?」
「悪い」
リチェールがさーっと顔を青ざめさせて固まる。
そのまま力が抜けたようにぽすっとベットにしりもちをついて、頭を抱える。
「ひどい。オレの宝物だったのに」
「今度はもっといいの買ってやるから」
「そういう問題じゃないよ!千は何にもわかってない!捨てることないじゃん」
本当にショックだとうつ伏せに寝転がって不貞腐れたように動かなくなるリチェールに思わず笑いが込み上げる。
ネックレスは事故にあってからも体の一部のようにつけっぱなしだったし、スヌードももう大分暖かくなってきたのに毎日つけていた。
お守りだって、買ってやったことすら俺は忘れていたのにずっとポケットに入れて持ち歩いていたことをあとから知った。
こうやって渡していたものを大切にしてくれてるのはありがたいけど、そんなに不貞腐れなくてもいいと思う。
早く連れて帰って、触れ合いたいのに、もう絶対動かないと言って拗ねてるリチェールには少し困るけど可愛いとも思う。
「本当は俺はこんなの見たくもないから捨ててほしいんだけどな」
ごそっとジャケットのポケットから薄汚れたお守りを取り出して、横目で睨んでくるリチェールの目の前に持っていった。
その瞬間、花でも飛ばしそうなくらい分かりやすく明るくなり飛び起きて、猿のようにバシッと素早く俺の手からお守りを奪った。
「よかったー!本当に捨てられたかと思ったー」
嬉しそうに両手でぎゅっと握ってそれに一度キスをすると、自分のポケットにしまった。
これで機嫌が直るのであればすぐに捨てなかったのは英断だったようだ。
「で、千。オレのスヌードは?」
ギクッとする。
そっちは本当に捨てた。
答えない俺にリチェールの表情はまたどんどん曇っていく。
「あー……悪い」
そしてついに、またパタンとうつ伏せに倒れて不貞腐れアピールを始めたリチェールを抱き上げて、車に向かう。
絶対に自分で歩こうとはせず、たまに「許さない…」と呟いてるのは聞こえたけど、気にせず歩いた。
車に乗せても目を合わそうとしないリチェールの額にキスをして車にエンジンをかけた。
起きて早々拗ねられ、困ってるのは事実だけど、やっぱりリチェールを家に連れて帰れることが嬉しい。
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