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そしてキミは
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「………はい。突然のことで、本当にご迷惑をおかけします。申し訳ございません。……そんな、あの、ありがとうございます」
いつのまにか寝てしまったのか、リチェールの誰かと話す声でぼんやりと意識が覚醒していく。
うっすら目を開けると丁度、失礼しますと言って電話を切っているところだった。
「おはよう」
声をかけると、リチェールはすこし驚いたような顔で振り返る。
それからすぐ、穏やかに微笑んだ。
「おはよう。千」
プラチナブロンドの髪や真っ白な肌がさし込む朝日に反射して綺麗だと思う。
おいで、と呼べば嬉しそうに頬を染めて腕に飛び込んできて、リチェールのいい香りが鼻をくすぐった。
「どこに電話してた?」
「んー?草薙さんと、ホテルの支配人」
甘えるように胸にすり寄ってくるリチェールの髪を撫でると、さらさらと指から溢れていく。
「バイトをやめるって電話してたー」
あっけらかんと言うリチェールの言葉に思わず撫でる手が止まる。
たしかにやめるって啖呵は切ってたけど、このワーカーホリックのことだから記憶が戻ったらやっぱりバイトはやめたくないと言うものだと思ってた。
「やめてよかったのか?」
「オレを弱みにされて千があの人の言いなりになるよりずっといいよー。今まで守ってくれてありがとう」
「……あー……」
思わず顔を押さえて背ける。
少し前まで当たり前だったこの笑顔が今は心臓に悪い。
もう一度組み敷きたくなる気持ちをぐっとこらえて、起き上がりタバコに火をつけた。
「草薙さん、オレが未成年って本当は最初からわかってたみたいで、また落ち着いたらぜひおいでって言ってもらえたよー。優しいよね」
「俺からも挨拶しておく」
「ふふ。ありがとう」
リチェールが仕事好きなのはわかっていた。
それなのに俺を優先してくれたことが嬉しい。
「まぁ光邦さんやアキちゃんには会おうと思えばいつでも会えるし、オレも受験生だしねー。次働くまでにはもっと千が安心できるようないい男になるからね」
「このまま専業主婦でもいいんだぞ」
「それはいやー」
くすくす二人で笑いあって、布団に潜る。
窓からは暖かい春の日が差し込んでいた。
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