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そしてキミは

________ 「ねぇ、千。どこいくのー?」 フォーマルな格好な着替えさせられ、千もスーツを着ている。 ホテルで食事と短く答える千に、ドレスコードがあるようなところなのかと、妙に焦ってしまう。 車でついたホテルはやっぱりジーパン、スニーカーで来れるような所ではなく、そわそわしながら千の後ろをついて歩いた。 ホテルでランチなんてなんだか、変なの。 今日何かあったかな?とチラッとスマホで日付を確認すると4月1日と表示されていて、まさかな……と目を伏せる。 オレが一年で一番嫌いな日。 でもそれを千に伝えた記憶はない。 色々考えてるうちに千が一人のスタッフを呼び止める。 「4人で予約した月城です」 4人? いよいよ分からなくなってきた。 雅人さんと純ちゃんと快気祝いでもしてくれるのだろうか。 この日はなにか特別なことなんてしたくない。 家でゆっくり何気ない一日にしたいと言ったら、千は今からでも帰ってくれるかな。 でももうこんないいホテルを予約してしまってる訳だから。 しかも案内された席は個室で、余計に帰りたいなんて言いづらい。 ……まぁ、千はエイプリルフールなんて覚えてすらないだろう。 スタッフが下がって、千に話しかけた。 「千?あとの二人ってだれ?」 「……あー、来てからのお楽しみ。てかリチェール、顔色悪いな」 向かいの席を後から来る二人用なのか空けていて、隣に座った千が心配そうにオレの頬を撫でてくる。 心配する千に、そんなことないよ、と笑って前を向くと、ふっと千が見透かしたように微笑む。 「リチェールが今まで、頑なに今日が誕生日だって教えなかったことと関係ある?」 ドキッと体が強張った。 誕生日を聞かれる度ずっとうまく誤魔化してきた。 だって、祝ってなんかほしくない。 「な……」 なんで知ってるの、と聞こうとしたとき、個室の静かにドアが開かれた。

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