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そしてキミは

『……無理なんてことは……ただ、どうしていいのか……』 自分で自分の気持ちがわからない。 だから声も弱々しく小さくなってしまう。 『お前が僕のことを許せないのは当然のことだと思う』 許す、許せないじゃなくて。 それだけの話なら、もうとっくに許してる。 この人を親として好きか好きじゃないか、関係が修復出来るのかは、正直なんて答えていいのかわからないんだ。 ただ、好きになりたいと思う。 歯切れの悪いオレに、父さんが静かに言葉を続けた。 『本当に悪かった。お前が僕になんか会いたくないって思うのも当然だし、謝って済む話じゃないってわかってても、一言ちゃんと伝えたかった』 まるで、これが最後のような言葉だと思う。 それはそれで寂しいなんて、オレは勝手だ。 笑顔が、ひきつる。 でもかける言葉が見付からなくて、うつ向いたとき千がそっとオレの肩を抱き寄せた。 『これでさよならなんてしたら、余計にリチェールが誕生日嫌いになるんでやめてもらえませんかね。決めつけて暴走するところ親子そっくりだな』 冗談混じりの声に、顔を上げると優しいスカイブルーの瞳とぶつかった。 「リチェール。今はっきり答えを出さなくていい。どうしていきたいか素直に声にしてみろ。これが最後じゃないんだから」 緊張の糸が急に解けたように、呼吸が楽になる。 オレが、どうしていきたいかなんて、そんなの。 「……こ、れで、母さんや父さんと、さよならなんて、寂しい……でも、やっぱり、まだ会うのは怖い……」 ぽろっと溢れた言葉は、きっと両親を傷付ける言葉だろう。 でも責めたい訳じゃない。 日本語だから聞き取れなかったとは思うけど、言葉と一緒に涙が溢れてしまった。

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