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体の痛みに、ゆっくり、少しずつ意識が覚醒する。 僕、死んだよね? うん。間違いなく、死んだよ。 あれは死ぬ衝撃だった。 そんなことを往生際悪く、ぐるぐる考えてもこの体の痛みは本物なわけで。 恐る恐る目をこじ開けた。 目の前は、白い天井とカーテンレール。 視界を横にずらせばドラマとかでみる、心拍数を測ってるのか脈拍を測ってるのかよくわからない、ピッピって音が鳴る変な病院の機械。 その機会から伸びるコードを目で追うともちろん僕と繋がってて、思わずため息をついた。 どうやら天国へはいけなかったらしい。 ショックで、しばらくぼーっとしてると看護師の女性が入ってきて、目が合う。 一瞬、驚いたように目を丸くしていた顔もすぐ笑顔に変わった。 「起きてたならナースコール押してよ。気分はどう?」 「すみません。今目が覚めたばかりで……」 「すぐ先生呼ぶから待っててね」 返事を待たずに看護師は背を返して入ったばかりのドアから出ていく。 医者の男性がすぐに来て体の調子を聞かれ、まだぼーっとしてるようだからゆっくり休むようにとだけ言うと忙しそうに出て行った。 残った看護師に話を聞くと、あの事故からまだ半日くらいしかたっていないらしい。 衝撃の割に僕は奇跡の軽症。 身体中の擦り傷と鎖骨にヒビが入っただけだとか。 運転手は飲酒運転だったらしく、その場から逃げるもすぐに捕まったとか。 てことは、僕が突き飛ばしたあの男の人が救急車を呼んでくれたのかな。 「少し前までいたらしいんだけどね。お仕事だって行っちゃった。そりゃ忙しいわよねぇ」 看護師さんは頬を赤くしてうっとりしたように言葉を続けた。 「びっくりするわよ。あなたが助けた相手、あの四季 清十郎(しき せいじゅうろう)だったの。私もさっき出勤したばかりで会えなかったのよ。本当に残念」 そんな、あの皆さんご存知の、みたいなトーンで言われても。 「えっと…ごめんなさい。どなたでしょう?」 「うそでしょ!?あなたテレビ見ないの!?」 信じられないという顔で僕を見る看護さんについ、もう一度すみませんと謝ってしまう。 「街中でもいろんなところで広告になってるじゃない……」 誰かはわからないけど、助かったのならよかった。 そんなに有名な人ならきっと悲しむひと沢山いるよね。 「運転手は自動車保険に入ってなかったみたいでね、入院費や治療費を支払う能力がないみたいなの。だから四季さんがお礼も兼ねて支払ってくれるそうよ。あと、あなた宛に連絡先預かってるわ」 正直、治療費は助かるけど、ホイホイ連絡先渡していいの有名人。 まぁ、退院したら今日明日にでも死ぬ予定だから連絡なんてしないけど。 僕の命を救おうと手をかけてくれた病院の皆様ごめんなさいと心で謝って、連絡する気もないメモを受け取ってお礼を言った。 その時、コンコンコンと3回のノックののちドアがスライドされ開いた。 現れたのは白に近いブランド髪をもつ天使のような容姿の外国人。 病室を間違えたのだろうか。 日本人離れした美しさに、僕も看護師さんも何も言えずに固まってると、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳と目があった。 「あ、起きられたんですね。この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。私、四季清十郎のマネージャーをしております。月城と申します」 いかにも英語を話しそうな容姿の口から溢れた流暢な言葉のギャップに一瞬頭がパニックになって何を話されたか理解できず声が出ない。

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