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丁寧に差し出された名刺を受け取ることもせず、フリーズした僕に外国人は心配そうに首を傾ける。
「大丈夫ですか?」
その声に、ハッとして慌てて名刺を両手で受け取り、僕も頭を下げた。
「す、すみません。日本語上手だなってびっくりしちゃって。あの、あ、えっと、怪我は全然大丈夫です…」
名刺に書かれた名前は、月城リチェールさん。
月城?ってことはハーフさんかな。
日本語上手だなんて言い方失礼だったかもしれない。
けれど月城さんは、どもりながらわたわたと早口に話す僕をクスクスと柔らかく笑った。
「ふふ。ありがとうございます。日本にきてもう10年くらい経つので」
それから、これつまらないものですが…と高級そうな紙袋に入った何かを渡された。
そしてまた申し訳なさそうに眉を下げて笑う。
「あの、榛名さんはまだ15歳と伺っているので、ご両親にも謝罪も兼ねてお話したいのですが、差し支えなければご連絡先伺ってもよろしいでしょうか」
月城さんの言葉に、さぁっと血の気が引く感覚に息を呑む。
「あ……っと、両親はずっと前に他界してまして。叔母夫婦の家でお世話になってましたが、昨日、中学卒業したので就職して一人暮らしになるので……保護者とかに連絡は…大丈夫です」
これ以上、あの家に迷惑をかけるわけにはいかない。
思わずシーツを握る手に力が篭った。
なにも馬鹿正直に答える必要はなかったのかもしれない。
どうして僕はこういつも、うまく誤魔化す事ができないんだろう。
月城さんが何か言おうと口を開いた瞬間、ガラッと病室のドアがノックもなしに開いた。
全員の視線が集まった先に立っていたのは、帽子、サングラス、マスクと不審者のフル装備をした長身の男。
「キャアア!!!」と悲鳴をあげる看護師さん。
わかる。
手に包丁でも持ってそうな雰囲気に僕もあげそうになった悲鳴をなんとか堪えた。
一応両手には何も持っていないことを確認すると、視線の先の骨張った手はスッと帽子とサングラスを外した。
そして現れた顔は、信じられないほどのイケメン。
「起きたんだ。よかった」
ハチミツ色の瞳が、僕を映して微笑む。
え、こわいこわいこわい。
イケメンが僕を見て笑ってる。
なにこれ、だれこれ。
何もいえずにいると、隣でガタン!と看護師さんが崩れた。
月城さんが、咄嗟に受け止めたから尻餅はつかなかったけど、完全に腰が抜けたのか支えられたまま立ち上がらない。
月城さんなんてまるで見えていないように、突然現れた不審者イケメンを、見つめて固まっている。
そして震えながら、声を発した。
「……し、き……せいじゅうろう……っ」
息の仕方すら忘れたような声で絞り出したような言葉に、もう一度男を見る。
紅茶のように赤みかかったサラサラの茶髪に、ビー玉みたいに透き通ったハチミツ色の瞳。鼻筋はすっきり通ってて、街で歩いていたら全員が振り返るだろう容姿は、さながらお伽噺の王子様だ。
この人が、四季清十郎。
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