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凍り付いた空気を、そうさせた張本人だけわかっていない様子でコツコツと靴を鳴らして僕のベットに近付き、美術品のような顔を傾げて顔を覗き込まれ、あまりの近さに息を呑む。
「大丈夫?」
う、わ。なんか、いい匂いする。
………じゃなくて!
「だ、大丈夫です!」
とっさに後ろに避けてしまった。
挙動不審な行動をしてしまったけれど、四季さんは気にした様子もなく「そう」と離れた。
「ごめんね。痛かったでしょ。ちゃんと責任取るからね」
飲酒運転で突っ込んできた運転手はさておき、誰が見ても四季さんはひとつも悪くないのに謝ってくれた。
むしろ、四季さんも被害者なのに。
「いえ、痛くないです。全然大したことないので本当に気にしないでください」
だって、どうせ死ぬんだから。
傷跡が残ろうが、後遺症が残ろうが、どうでもいい。
むしろ、生まれてきたことすら間違えだったこの僕が、最後の最後で人ひとり護れたのだから救いだと感じるほどだ。
「………。ルリ、彼の保護者の方に連絡は?」
突然月城さんに振り返り、ぎくっとする話題に触れる。
さっき四季さんの登場で有耶無耶にできた話が蒸し返されてしまった。
「そのことなんだけど……」
「あの!!言わないでもらえませんか!」
月城さんが口を開いた時、つい遮るように声を張ってしまった。
「お、親が早くに他界してから、育てていただいた家庭には本当に迷惑ばかりかけしてきたんです。やっと……やっと、中学卒業して、家を出てこれから…って時なんです!これ以上、心配とかかけるわけにはいかなくて…っ」
ああ、ご迷惑かもしれない。
それはわかるのに、どうしても保護者に連絡なんてやめてほしい。
必死に頭を下げると、月城さんが慌てて僕の肩に手を添えた。
「事情も知らずにいきなり保護者に連絡とか言ってごめんね。言わないからそんな真っ青な顔しないで」
真っ青?
そんなに顔に出てしまっていたのだろうか。
うまく誤魔化せた気はしないけど、保護者への連絡がなくなったことにホッと息をつく。
けれど、固まっていた看護師さんが急にダメよ!と口を開いた。
「あとからご親戚の方が謝罪もないのかってお怒りになったり、パパラッチとかに突撃されて謝罪はなかったとか週刊誌に載ったりしたら、バッシングを受けるのは有名人の清十郎さんじゃない」
「いえ、あの…あの…周りには言いませんから…」
「だからってマスコミに知られる可能性はゼロじゃないのよ?あなたは遠慮してるつもりかもしれないけど、かえって四季さんのご迷惑よ」
ですよね!?と看護師さんは少し興奮気味に四季さんを見る。
正論すぎて何も言えない。
確かに、未成年の分際であまりにも相手の立場とか考えが至らない自己中な言い分をしまったことに恥ずかしくて俯いてしまった。
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